茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(211)養生祭

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(211)養生祭
加藤匡通
五月××日(火)
  都内のある繁華街から二十分ほど歩くと賑やかだった光景が一変し、物静かな高級住宅地となる。現場はその一角のマンション。日曜から来ているが、地下の駐車場に毛布が敷かれて荷物がところどころ置かれ、人が座り込んでいる光景を最初に見た時は集団野営かと思ってぎょっとした。かつて毎週見ていた光景、どころか泊まり込んで寝てた。
   養生・クリーニング屋のR社の仕事だが、会社からははつりの相番か検査対応と聞いていた。そんなうまい話はあるまいとは思っていたが、詰所である毛布の上で朝礼までの待ち時間に聞こえてくる職人たちの会話には「養生祭」と言う不穏な単語が混じっている。いや、R社十数人いるけどこれが全員養生だったらえらいことだぞ。勘弁して欲しい。まあ、そんなことを考えてれば僕が養生班に振り分けられのは当然である。
   作業は天井の手直しがあるらしく、そのための床と壁の養生。シート養生の上にさらに薄ベニを敷く部屋もあるが、初日はひたすら部屋の隅に253を貼ってシートを敷いてガムテで止めて、の繰り返し。カーペットの部屋などシートを広げてガムテープで止めようとすると、どうしても上に乗らなければならず、しかし乗るとピンと張ったシートがカーペットの厚みの分ずれて実にやりずらいのだが、それでもこのくらいなら僕でも全く問題なく出来る。なんだ、今回の養生楽勝じゃん、とか思っていた。もちろん世の中そんなにうまくない。二日目の昨日は壁の養生に移り、組む職人も変わって追い立てられながら段プラを加工しての貼り付けとなり、冷や汗をかき神経をすり減らして過ごした。高そうな、僕には一生縁のない部屋だがそんなところをゆっくり見ている余裕などとうになくしている。途中で手が遅いからと養生材の移動を振られ、僕のいる派遣会社はむしろ養生・クリーニングは得意な者が多いので彼らなら屈辱だろうが僕はむしろほっとして材料を動かし片付けをした。
   で、今日である。読書会が再開され、夜の八時にはつくばに居たい。現場を五時過ぎに出るとつくばの会場に着くのはぎりぎりである。余裕が欲しくて昨日、会社に他の、もうすこし近くの現場がないかと聞いてみた。案の定ないと答えられたのであきらめた。ぎりぎりで入るつもりだった。朝、最寄駅で下りて派遣会社に仕事に出ている、現場に到着すると言ういつもの電話をかけた。留守電になっていたので「加藤でーす、もう現場に入りまーす」と吹き込んだ。と、すぐ携帯が鳴った。この時間に来る電話は会社しかないが、何だろうと思いながら電話に出たら「加藤さん今日休みじゃないんですか!」。うお、そう来たか!代わりの人間が手配されていると言う。忙しい時期ならともかく、今から他の現場なんか出るわきゃない。こりゃ今日も休みだな。お互いの確認ミスなので日当寄越せと言う気にもならず、交通費は出してくれと言って電話を切った。現場に荷物は置きっ放しなのでこっそり荷物だけ取りにいく。いや、バツの悪いこと。職長には「手配ミスでこれから他の現場です」と嘘をついた。
   と言うことで繁華街で八時前に解放されてしまった。金にはならんが悪い感じじゃないぞ。丁度いいから六本木で『インファナル・アフェア』を見よう、と上映時間を調べてみる。十一時からの一回しかなくて、そんな時間に都内にいても基本的には賃労働なのでいつ見に行こうかと思っていたのだ。これは渡りに船である。と言うか、会社から電話が返ってきた段階で頭の中にはそれしかなくなっている。なのに上映金曜で終わってやがんの。数年振りで劇場で見られと思ったのにな。
  代わりに『死霊のはらわた』と、地元に戻ってから『図書館戦争』を見た。『死霊のはらわた』はもちろん前の三作とも劇場で公開時に見ている。血しぶきを堪能した。問題は『図書館戦争』の方で、大義名分持って戦争するけど犠牲は最小限で痛みは少なくしかも恋愛までできるというおたくの願望充足映画だった。そもそも警察と自衛隊の他に対立してる武装した公的機関があって局地戦してるって設定が理解出来ない。そんな内戦につながりかねない事態を国家が許容するとは思えないよ。原作にはそこらへんは納得出来る説明があるんだろうか。