茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(212)スリーブ入れとガムテ貼り

加藤匡通
五月××日(金)
  外溝屋Y社の仕事でも通った超高級住宅地に昨日一昨日と行った。現場はY社の時とは線路を挟んで反対だが、敷地の広さと基礎の深さから小振りのマンションかと思いきや、一軒家だと言われた。これで一軒家ですか。やっぱりヤな街だ。
   作業は派遣会社からはスリーブ入れと言われ、結束線を結ぶハッカを持たされた。スリーブ入れって何のことだ?と思っていたが、朝派遣先の会社の説明を聞いてわかった。なんだボイド入れじゃん!設備屋が上下水道の配管用にコン打ちしたら梁となるところに配筋された段階で管を通しておく、その管のことをスリーブないしボイドと言う、らしい。電気の線を通す場合も同様である、らしい。この設備屋はスリーブに塩ビ管を使っていた。スリーブとボイドが同じなのか違うのかはわからない。僕の中ではボイドとは、長いこと厚紙で作られた管のことだった。スーパーゼネコンに雑工で入ってて、よくバール一本渡されて監督に「これでボイド抜いといて」と言われてたのだ。コンクリの中のボイドはなかなか取れずに僕が苦労していると件の監督はいとも簡単にボイドを抜くので僕たち雑工は「きっとあのスーパーゼネコンの入社試験にはボイド抜きがあるんだ」と話していたものだ。
   設備屋からは監督が一人、職人は他の現場を回ってから来ると言う。一昨日の一日目は十一時頃に、昨日は十時頃来た。ゼネコンの監督はヘルメット被ってないし、ゆるい現場である。今時びっくりだが、おおらかなのはいいことだよ。
  作業は梁となる鉄筋の中に結束線とハッカを使っての塩ビ管の固定である。塩ビ管は周囲の鉄筋にしっかり固定しないと生コン打設時に圧力に負けて動いてしまい、配管の位置が合わなくなりかねない。そのため周りの鉄筋に複数個所結束線で縛り付ける。結束線は細い針金、ハッカはそれを縛る道具で先端が鍵状に曲がっていて結束線を引っ掛けることが出来る。さらに鍵状の本体は細長くなっていて手持ちする部分はその棒の部分を取り巻く筒となっているので、本体部分は回転する。これで結束線を結ぶことが出来るわけだ。Y社の時もブロック基礎の鉄筋組むのに使ってた。会社から渡されたハッカは、しかし初めて見る形で、先端の鍵がかなり短い。結束は、結束線を鍵に引っ掛け、少し引っ張りながらハッカをクルクル回して結束線を結ぶと言う二つの動作で行うが、鍵が短過ぎて結束線を引っ掛けると言う最初の動作に四苦八苦、久しぶりだから手間取っているのかと首を傾げていた。と、職人が僕が使っているハッカを見て「それ、空調屋が使う奴だろ。」と、自分のハッカを貸してくれた。なんだよそもそも別物かよ、と最初に渡された段階で気付かなかったことを棚に上げて毒づく。
   塩ビ管を入れるべき位置に鉄筋があったりして、そうすると鉄筋の結束をほどいてハンマーでひっぱたいて鉄筋をずらしたりして、なんて手間はあるものの、道具さえあればそんなにややこしい作業でもないのだが、作業場所が見事に鉄筋屋と被ってしまっている。彼等は床一面の配筋もするのだ。露骨に邪魔者扱いされたりしてなかなか進まず、予定は二日だったが設備屋からは明日も頼むと言われた。始めから、場合によっては延長もあると会社からも聞いていたが、会社は金曜は他の現場に入れたがっていて、ゆるいし楽な現場の方がいいに決まっている僕はもちろんこのまま三日目を希望していたが、やっぱりそんなうまい話はなかった。
   と言うことで今日金曜はしばらく前に入った別の現場に来ている。派遣会社が一次で入り、前回ははつり屋の手元仕事でガラ出しがメイン、きつい仕事で同僚たち(日雇派遣の仲間をこう表記するのには何だか違和感があるけど)の評判は悪かった。覚悟して来たら会社からは僕一人、作業はスラブ穴のガムテープ貼りだと言う。拍子抜けした。これなら誰だって出来るだろうに、何故僕が呼ばれたのかわからない。たまたま他の人は固定の現場で動けなかったのだろうか。(このくらい簡単な作業しか加藤には任せられない、と言う可能性に今気付いた。もう少し高い評価であることを願う。)スラブは鉄骨を組んだ後、床にコンクリ打設をする床の基礎、凸凹の鉄板である。これを鉄骨にはめ込んで溶接してその上に鉄筋を組んでからコンクリを流す。端には隙間が出来るので、大きい物は鍛冶屋がふさぐが小さい物はガムテープでふさぐのだ。ふさがないと当然コンクリが下に流れ出す。大きな穴でなければそのうちコンクリは止まるだろうが、危なくて仕方ないので可能な限り穴はふさぐ。初めてこの作業をした時はガムテでいいんだとびっくりした。一年以上入っていた現場で延々何日もこれをやって飽きたことがある。
   やることは簡単だ。穴の周りの鉄骨やスラブが汚れていれば刷毛やウエスで軽く掃除をしてガムテープを貼るだけである。しかし足下が悪い。鉄筋の上に通り道として板が渡してあるものの、テープを貼るのは板のない端ばかり、鉄筋の上をつたって歩くのは何より神経をゆっくりすり減らす。足を取られて転べば擦り傷切り傷は当たり前、場合によっては骨折となる。何よりそんなに転ぶ奴はいないので恥ずかしい。面積はそんなにないので早上がりを期待したが三時の休憩を越えてしまった。どうにか四時前に終わらせて監督に連絡すると、まだ早いからしばらく待っててと言われてしまった。作業は終わってるのに現場に足止めである。着替えて待ち続け、解放されたのは結局五時前。ああもう!