茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(244)本八幡で古本屋に振られ続ける

加藤匡通
一月××日(木)
  今朝は駅から現場が遠く、しかも新規入場者教育が早いからと、集合が駅改札に六時五十分だった。どんな嫌がらせだよ。五時四十四分発だと電車が駅に着くのが五十分なので一本前、十九分発の始発に乗った。で、待ち合わせ場所に着いたら、もう一人来るはずが来ない。バスが間に合わないからと五分も待たずにバス停へ移動した。あれ、バスなんだ、歩きじゃないんだ。待ち合わせの相手(職長だった)に確認したら会社は払うと言う。なーんだ。ついでに書くと来なかった待ち合わせ相手は何度も一緒に現場に入ったベテランで、あの人でもこけることがあるんだと驚いた。後で聞いたら出掛けに携帯電話が行方不明になって動けなかったらしい。ああ、それは出れないわな。みんな見事に道具に絡めとられてるよ、僕も含めて。
  今日はスーパーゼネコンの下に派遣会社が一次で入っている。養生・クリーニングと言うよりは雑で入っているようだ。新規入場者教育の会場は現場事務所の一角で、足場の階段を登った先だった。現場は既存の施設で事務所はその中の二階、建物の中を通っていいのなら何も問題はない。しかし既存の施設は現在稼動中、よって建物内は歩けない。人一人通るのがやっとの足場の階段をあちこちぶつけそうになりながらひいひい言いって登り、事務所に着いたら血圧を測れと言う。新規(新規入場者教育は普通こう呼ぶ)で血圧を測ること自体は現場での健康管理の一環としてよくある光景ではある。しかし足場の階段登った直後に測れって言われたのは初めてだ。新規を受けに来た職人たちの血圧はみな最低が百二十を越えている。新規を担当しているまだ二十代前半のスーパーゼネコンの監督は「その数字だと現場に入れないので測り直して下さい」と言い、みんな測り直しているが数字は変わらない。当たり前だつーの。て言うか、ここの監督馬鹿じゃねーか?
  現場は既存の病院である。工事はその上への増築で、今日は増築分へのコン打ち、仕事の内容はコン打ち相番と聞いている。既存とは現場直下の病院は動いていることを、当然にも意味する。入院患者がいるんだぜ?その上でコン打ちとは、気合が入っていると言うか、なんでこんなことをするのかわからない。うーん、病院経営は実に奥が深い。
   詳しく聞いたら増築分の今日打つ真下は屋上で、その屋上にスラブの隙間からコンクリがこぼれたりして汚すのを避けるために真下にブルーシートを敷いて回る作業だと言う。相番とはメインで作業する職種が作業しやすいように他職が補助するのことを言う。鳶が足場をばらすのにシール屋がくっついてばらされて作業出来なくなる場所にシールを打ったり、クリーニング屋が手が届かなくなる場所をクリーニングしたりするのが相番である。コン打ちの相番と言われればまず思い浮かべるのは電気屋や設備屋がバイブレーターのスイッチ係かバイブレーターのコードさばき係である。バイブレーターは大きいと言うか長いので主に使う先端部とスイッチは離れているし全体が長ーいコードのようなものなので、コンクリの中に埋もれる鉄筋によく引っかかり、絡まるから助手が必要なのだ。電気屋も設備屋も配管をコンクリで埋められては困るので、コン打ちをする土工やポンプ屋に「人手出して手伝うから配慮してね」と、人を出す。この役は派遣であることが多い。本職に高い人区を払って助手をさせるのは割が合わないからだ。相番とはそう言ったもので、コンクリ養生のシートを動かして回るのは相番ではない。それはコン打ち職人である土工の、メインの仕事だろう。(もちろん養生・クリーニング屋の仕事でもない。彼らにやれと言ったら怒り出すだろう。でもその怒りは自分たちより格下の土工の仕事をしろと言われたことに対する差別的な怒りでもある。)元請のゼネコンが土工を手配したが必要な人数を確保出来なくて派遣会社に頼んだそうだ。なのに予定人数に足りてないとは、今日はきつそうだな。
   コン打ちが始まると、まったく休む間がなかった。僕たちの頭上でコン打ちが行われ、その下に二十枚ブルーシートを敷いておく。しかしいざコン打ちが始まるとポンプの筒先はシートを敷いてない方へと向かって行ったりするし、何より思っていた以上に打つ速度が速い。建物の際やエアコン屋外機の前といった風で飛びそうなところだけ縛ったり重しを置いたりするが、シートは基本的には置くだけだ。動かす時は上から落ちて来たコンクリがこぼれないようにシートを丸める。丸めて広げて、を繰り返すだけだがコン打ちの速度が速いからシートを置いたらすぐシートを丸めないといけない。追いついて少し余裕が出たかと思えば職長は何やら動き回っていて、それについていかなければならない。それだけ動いていながら日陰でしかも川沿いなので絶えず風が吹いていて、動きを止めると寒いのだ。そんな状態で九時から一時半まで休みなし。いやこれきついな。
長めの昼休みを取って三時から片付けをし、こぼれた生コンを掃除したら五時近い。既存の屋上は増築が前提となっていて防水工事がしてあった。防水工事は仕上がりが真っ黒になるので生コンのこぼれがよく目立つ。またよりによってって感じだ。結局三時休憩を取っていないので三十分残業がついた。
  さて、今日は朝から楽しみがあった。帰りの乗換駅が本八幡で、本八幡には古本屋が三軒あるのだ。そのうち一軒の川井書店に行くのを楽しみにしていたのである。ここで以前『ワッパ一揆』と言う山形県庄内地方で明治の始めにあった自由民権運動の先駆とも言える運動についての本を買い、以降ようやく自由民権運動への関心を持つに至った。庄内は父の実家のある、僕の本籍地でもある(公安は当然僕の本籍地なんてとうに調べているから気にせず書ける。)。もう二年早ければ父にワッパ一揆について聞けたのに、とは思うが、そういう興味深い、あまり知られていない本(僕が不勉強なのは棚上げしとくけど)を置いている古本屋なら、またきっと面白い本が埋まっているぬ違いない。Y社の現場に通っていた期間の前半には本八幡を乗換に使う現場もあったがY社の後半は二十三区南部に現場が移り本八幡で乗換ることはなくなった。で、今日は久し振りの本八幡である!
  駅を下り、高架にそって商店街を浮き浮きしながら歩いて行く。えーと、そろそろ出てくるんじゃないかと。しかし見えたのはシャッターの下りている川井書店の姿だった。定休日らしい。ああああ。しばし打ちひしがれるもどうにか気を取り直して来た道を戻り駅を越える。駅を挟んで反対側にはもう一軒の古本屋、CoMoHouseがあるのだ。今度こそ、と意気込んで歩いて行くと、記憶の中で店のあったマンションはクリーム色の防音壁に囲まれ、開口部からはユンボが頭を突っ込んでいる。解体中だよ。がちょーん。もう一度気を取り直して、前回は立ち寄ったものの少々高めで何も買わなかった山本書店へ向かう。場所を間違えて携帯で何度も確認し(電話で何故電話をかけずに確認してるのかいまだに不思議なんだが)、京成本八幡駅前とやっと理解してた  どり着いたら、うお、ここもシャッターが下りてる!同じ地域で定休日重ねんなよ!
   釈然としない気分でもう一つの乗換駅南流山で下車、駅前のブックジャムに入った。ここは割と通るから寄る機会は多い。『エム・バタフライ』と『市民のための科学論』を買って出て来た。古本屋にも振られ続けるとは。そんなとこまで人生反映しなくていいのに。