茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(267)フローリングで寝る

加藤匡通
七月××日(木)
  都内南部の高級住宅地に来ている。日雇派遣の仕事でこの辺りに来るのは初めてだ。サラリーマン時代に駅前に来たことはあるがほぼ二十年振りである。かつては駅前からして閑静な住宅街で人通りも少なかったが駅ビルが出来、買い物客で駅前が賑わっているので驚いた。その代わり、ではないのだろうが、駅前にあった本屋は姿を消している。道行く人が身なりからして違うのは、こうした高級住宅地に来るたびに感ずることだ。
今回の仕事は内装解体。派遣会社で手配時に聞いていたのは水に濡れたボードと床を剥がす、だった。大した広さではないとも言われた。作業員は僕と派遣会社からもう一人で解体作業はもう一人の方がメイン、僕は手元である。相方は僕が今の派遣会社に登録した十年前から職長をしていたベテラン、聞けばもう六十半ばなのだとか。現場は住宅街の一角、辺りに商店はない。住人がいるはずだが、床を引っ剥がすからか荷物はほとんどなく、おしゃれな外観、内装もあいまってまるでモデルルール。しかしトイレは使えず、目の前にあるエアコンもつけられない。トイレは五分程先にあるコンビニを使えと言われた。問題はボードである。随分と広い台所の壁に、よく見ると何やら着いている。黴だ。フローリングの床には穴が開いていて、壁に黴が出ているからと試しに開けてみたら床下六十センチコンクリ土間までの空間の三分の二まで水が溜まっていたそうだ。排水したら四トンあったとか。コンクリ土間の下にはまた部屋があるんだぜ!今のところ下の部屋の住人から苦情は来ていないらしいが、いや実に恐ろしい。その水をボードが吸って黴が出ている。こうなると全部剥がして取り替えないと駄目だと思うんだが、予算の関係でなるべく取り替える部分を少なくしたい、と監督。スーパーゼネコンが下請けに丸投げ、下請けは散々安く叩かれたので手抜きをして、結果地面の下の躯体に穴が開いて(!)水が入った。
  当たり前だが下請けが安く叩かれたので手を抜いたと言う話は極めてありふれた話である。土間の鉄筋が少ない、厚みが足りないなんて改修でやっと発覚するが、その時はスーパーゼネコンも施主に対して誤魔化すのに必死、手抜きをとやかく言ってる余裕はない。元請けは下請けをいじめて肥え太る。建設業に限らずどこでも聞く話だ。ここで眉をしかめるべき相手は手を抜いた下請けではなく安く叩いたスーパーゼネコンだから間違えないように。
  件の下請けは「あの物件はもう勘弁してくれ」と逃げてしまい本来の元請けであるスーパーゼネコンが対応していて、住人にはどうにか補修費用を用意させたものの、額は少ないのだとか。しかしボードを剥がすとしたの軽天材も錆びていて、水に浸かっていたところなど箒でつつくだけで崩れてしまう。こんなのどうにもなんないだろ。結局、作り付けのシンクも黴ていて全部取り外し、壁のボードも床も全て引っ剥がした。
  ゴミの搬出まで含めて丸三日、ゆっくりやってゆっくり休憩取って、のラクな現場だったよ。高級住宅地の中だから朝は九時開始だしな。
が、何よりこの現場でよかったのは休み時間、フローリングの床に寝れたことだ。剥がさない部屋も作業用に養生してあって(いや、僕たちがやったんだが)、元から広い部屋なのでボードや何かをガラ袋に詰めて置いても人が横になるスペースがたっぷりある。普段詰所で寝る時は机に突っ伏してる。人が少ないと椅子に寝れるが、折り畳み式のパイプ椅子を四つ並べてその上に横になるのは机に突っ伏すのに比べりゃ相当ラクチンだが、やっぱり背中は痛い。折り畳み式の長椅子はパイプ椅子のベッドより上等だが、こちらはやや小さい。長椅子の小さいタイプともなれば、小さ過ぎてすぐ落ちてしまうので寝ながらバランスを取らないといけない。僕はそんな器用なことは出来ないので小さい長椅子では眠れないのだ。それに比べ、きれいな床なら落ちないし背中も痛くならない。実に素晴らしいのだ!エアコンは使えないものの風通しもよく、三日間よく眠れたよ。
駅から現場に行く間に古本屋があった。初日の帰りに寄ったら面白い本があった。『ワッパ一揆』を読んで以来庄内地方も歴史も関心の範囲に入っているが、『庄内人名辞典』は六千円なので手が出なかったものの『荘内資料 附荘内年代記』を千円で入手。「大正元」年のものの復刻版で旧漢字旧仮名遣いどころか候文、ほんとに読むのか、いや読み通せるか極めて怪しい。持ち合わせがなくて買わなかった本があって、しかし二日目は時間がなくて寄れず、三日目で最終日の今日寄ろうと思っていたら、店は休みだった。うん、まあそんなもんだよ。