茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(310)現場でメーデーの声を聞く

加藤匡通
五月×日(金)
 火曜はつくばでのメーデーのデモ申請で休み、水曜は呪うべき天皇制の休日、都内のデモに行くつもりだったが前日になって予定変更、近くの面白そうな講演会に行った。木曜金曜、つまり昨日今日は仕事である。来週月曜からの三連休も仕事を入れたいと思っている。首が廻らないのだ。
  昨日は個人宅のリフォームのための外壁撤去で、派遣会社がゼネコンに一次で入っていた。いやーこれは一次とかって規模じゃないなあ。現場には僕たち日雇派遣四人だけ、監督は半日もおらず他に作業員はいない。解体撤去をしているのは昨日から来ている二人で僕ともう一人は解体材の搬出要員として呼ばれた。このうち一人はまだ二十代初めで、彼だけは派遣会社の正社員である。彼のような現場社員と呼ばれる者が数人いる。当然固定給だ。他はみなお馴染みの三十代終わりから四十代後半のおっさんばかり。解体材の分量は多くもないのだが、住宅密集地の中、敷地いっぱいに建つ二階建一軒家で足場がぐるっと取り囲んでいる。搬出はまだしも、これでバールを振り回すのは難しかろう。案の定、解体で残っていたのは狭くてやりづらい所ばかりだったようで三時頃までかかっていた。その間搬出の二人は足場の上で、丁度いい位置に突き出ている控えの短管を身をかがめたりくねらせたりしながらかわして解体材を運び続ける。四時前にゴミ出しのニトンコンテナ車が来て全員で積み込み、五時には現場を出ていた。コンテナ車、まだまだ積めそうだったな。
 この日の現場が決まったのは前日の昼だった。前日は呪うべき天皇制の休日、本来手配の電話はない。火曜の夕方「手配がつかない」と言われて慌てて連休中の仕事を探したが、当日払いの手頃な仕事はとうになく、連休は部屋の片方けと読書かと頭を抱えていた(どっちもやんなきゃいけないことではある。)。いくら金額がよくても一ト月以上先の支払いなど論外だ。それに、二千円以上かけて都内に仕事のための登録をしに出る余裕もない(今回調べて当日登録で働ける会社がいくつもあることを知り驚いた。けどそういう会社は一カ月以上先の振り込みばかり、今回は無理だ。)。と、講演会の前に会社の手配担当から電話が来た。「加藤さん、仕事出て来たんですけど明日行けますか?」
 そのやり取りの中、彼の電話からは子どもの声が聞こえてきた。「昨日○○さんから電話があってさ」と現場社員に聞いてみる。「子どもの声が聞こえたんだけど。」「あぁ○○さんは二人いますよ。」「他の社員にも子どもいるの?」「ええ、みんないますね。」。つまり社員はみんな結婚していて子どももいると。その場にいた日雇派遣の二人もやっぱりなって顔をしてた。そういやこの前の職長教育で職人への指導の仕方の話をした時に子育てを例にして話てたっけな。その例えその場の誰にも響かないぞ。講師をしている社員の君には子どもがいるのだろうが、あの場にいた研修受けてる側の日雇派遣には多分一人も子持ちはいない。君たち派遣会社の社員、手配する側は労働者、手配される側はアンダークラスってことだ。(以前、組合企画のビラにある「アンダークラスは労働者からも搾取されている」と言う文章に異議を唱えた党派活動家がいた。「あなたたちは本気でそう思っているのですか?搾取しているのは資本家でしょう。」。労働者階級を聖化したいのならしてるがいいさ。けど、あなたたちが本気でそう思っているのなら、わかったふりして「非正規労働者の戦い」とか言うの止めてくんねぇか?それとも「ホワイトカラーの男性社員は新中間階級であって労働者階級ではない」と言葉の定義としては正しい指摘をして「これだからマルクス主義を理解していないアナーキストは困る」とか言うのか?)
 今日は都心で新築ビルの外壁をクリーニングしている。足場の上での作業だが、ただの水拭きだ。塗装も終わった白いパネルを、ところどころモルタルがこびりついているので一枚刃と呼ぶ道具を裏刃にしてモルタルを落とす。刃を立てるとパネルに傷がついてしまうので気をつけなけれはならない。それからウエスで水拭きだ。同じような作業を延々繰り返す。目の前の光景はほとんど変わらない。一緒にやってる僕とは比べものにならない本気のクリーニング屋たち(ただし全員日雇派遣。)も飽きたと口にしている。
  十時の一服のあと、足場から身を乗り出して水拭きをしているとシュプレヒコールが聞こえて来た。そういやここは日比谷公園が近かったな。何と言っているのかは聞き取れない。今日金曜はメーデーである。今年もメーデーに賃労働だ。
 もちろん現場でシュプレヒコールなど出来ない。この現場にどれだけの日雇派遣がいるのか知らないが、みんなメーデーなんて関係ないと思っている。僕たち日雇派遣のようなアンダークラスにこそメーデー階級闘争は必要なのだ。それなのに、くそっ!ベキッ!(あ、やべパネル凹んじゃった。)