茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(333)香山滋展

加藤匡通
一月××日(金)
有名な建物の改修に入っている。もう三日目だ。養生・クリーニングのR社で入っているが、以前は別棟に同じく養生・クリーニングのN社で入っていた。こういうことはよくある。大きな現場になると同業者が四つも五つも入っていることがあるくらいだ。ちなみにR社とN社はかつては同じ会社で、僕も日雇派遣に入ったばかりの頃に何度も入ったことある。その後会社が倒産していくつかに別れて再出発したそうだ。そう言えば、世紀が変わった頃にいたやっぱり養生・クリーニング屋の丸進工業も潰れたと最近聞いたな。面接時の書類にはっきりと日雇とあって、「なら白手帳に印紙貼ってくれ」と言ったがあっさり「うちはやってない。」と断られた。そんな訳で手帳は持っていたものの日雇の失業保険はもらわず終いだ。
養生・クリーニング屋だからと言って作業が養生・クリーニングとは限らないのは散々書いてきた通りである。初日の朝の振り分けで、ガラ出し班ではなく養生班に振られた時はがっかりした。作業は天井解体に伴う壁全面のパネルへのプラ段養生。ところがこれが極めて簡単な養生で、通常なら塗装剥がれや汚れを気にして直接貼らず、粘着力の弱い下地のテープを貼った上からテープを貼るところをテープは直貼り、養生面積が広いので何度も再利用したいからとプラ段の加工は最低限、出来れば加工はなしにして重ね貼りOK。要は真物のプラ段をとにかく貼っ着けていけばいいだけなのだ。養生の嫌いな僕でも苦にならないやりやすさである。それを五人でやっているからすごいスピードで作業は進むが範囲が広いので何日かかかるが、養生をここまでラクだと思うなんて、こんなの初めてだよ。
昨日は現場が終わってから中野に向かった。区立中央図書館で「異彩の作家 香山滋〜古代・浪漫・奇譚〜」展が開かれているのだ。香山滋は『ゴジラ』の原作者として知られているが、現在では推理小説とSFのファン、ないし怪獣おたくくらいしか知らない小説家だ。六十年以上前の流行作家なんて知らなくて当たり前ではある。割と現場から中野は近いので行くならこの現場にいるうちの方がいいと、何の予定も入っていなかった昨日足を伸ばしたのだ。練馬や江戸川の現場から中野まで出るなんてのはなるべく避けたい。中野に住んでいたからと展示をするとは、中野の図書館のセンスには恐れ入る。一般的な知名度はないものの高額の全集が出たりもしている小説家ではあるので、誘蛾灯に引寄せられる虫のようにやって来る利用者も多少はいるのだろう。当然僕もその一匹である。全集全部は持ってないけどな。古本屋で買えばかなりの額となるはずの著作より、同時代の小説家への葉書や『妖蝶記』の生原稿、自作短歌の手稿本に目を奪われる。『妖蝶記』の原稿は大学の入学祝いに買ってもらった復刻版の『香山滋名作選』に複写版が入っていたが、まさか本物を見ることがあろうとは。小さいがいい展示だったよ。二十八日までだから、この文章を読んで知った関心ある人は急ぐこと(展示の存在を教えてくれたのはブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』。各地の古本屋どころかこんな展示まで教えてもらうとは、足を向けて眠れません!)。