茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(342)或る夜の出来事

加藤匡通
五月××日(日)
 夜八時過ぎに居酒屋から出てみると目の前で制服警官が赤い棒を振って車を停めている。検問だ。もちろん僕は運転するしないの以前に酒はやめているので問題はない。昼に用事は済んでいるので急ぐこともない。停められたら原則的な対応するか。
  車を停めるとまだ若い、二十歳をいくつか過ぎているかといったくらいの警官が寄って来た。窓を開ける。「すいません、免許証見せてもらえますか。」「なんでですか。」「テレビで警察24時とかやってるでしょ。あれと同じで検問やってるんですよ。」「見たことないな。わかんないよ。」「今サミットの警戒中で検問をしていまして。免許証を見せてくれませんか?」「それ、任意だよね。」「はい。」「任意なんだよね?」「はい。」「じゃあ見せなくていいよね?任意ってそういうことだよね?」「ええ、任意なんですけど。見せてくださいよ。」「嫌だ。」「そんなこと言わないで見せてくださいよ。」「だってこれ任意だろ。任意なら見せない自由があるだろ。」「ええ、任意です。」「強制じゃないんだよな。」この段階で当然僕の車は何事かと集まって来た警官に囲まれている。似たようなやり取りを何度か繰り返したところで「それじゃあ飲んでるかどうかだけ確認させてください。」と言って来た。飲んでる訳ねえだろ!求められるままに警官の顔に思い切り息を吹きかけてやる。これで終わりかと思ったがそんなはずがない。年嵩の警官が出て来て言った。「自動車を運転している人には免許提示義務がありまして。免許証見せてもらえませんか?」おう、そんなことすっかり忘れてたぜ。先に言えよ。仕方なく免許証を見せる。けど見せるだけだ、渡さない。若い警官は僕が免許証を離さないので懐中電灯で照らして腰をかがめたまま照会している。終わっての台詞が「サミット警戒中で、念のために後ろの荷物見せてもらえますか。」まあそうなるよな。「それは任意だよね?」「ええ。」「じゃあ見せなくていいよね?任意だよね?」「でもですね、皆さんに協力してもらってまして。今サミットで警戒中でして。なにかあると困るので車の中の荷物を見せてもらいたいんですが。」「ヤだよ。お願いされて断ってるだろ。」「後ろを見せてもらうだけでいいんですよ、何とかお願い出来ませんか。」「君さ、任意って言葉の意味知ってる?」スキンヘッドに下駄履き、でかいリュックと露骨に怪しい姿で都内を歩いていても不思議と職質されたことはない。車で検問に引っ掛かったこともほぼない。だから実は検問で頑張ったのはこれが、ああ、正確には二度目だ。沖縄サミットで一回やってるわ。でもあん時ゃ一人じゃなかった。押し問答は延々続く。「だいたいさあ、免許照会して俺が何者かわかったんだろ。昼間何してたかもわかったんだろ。その上で何調べんだよ。」「それは管轄が違うので。こちらはこちらでやってますから。」「何言ってんだよ。情報回ってんだろだ。帰りなんだよ。」昼間、つくばでサミット反対のデモをしていたのだ。居酒屋はその交流会、店の前には初めて見る、これまで見える場所に出たことのなかった県警の公安がはりついていたのだ。もしかすると僕の車を停めたのはたまたまかもしれないが、遅くとも照会した段階で僕が何者かはわかる。デモの後で車に危険物を積んでるはずがないのは公安だってわかるだろう。もちろん、だから嫌がらせなのだ、と言うのはある。しかし昼のデモ規制、初めて茨城で目にした大量の公安のお陰でこちらは頭に血が昇っている。なんで夜までお前らに振り回されなきゃならねえんだ。ここで検問振り切って車を出したら、せっかく昼間弾圧を喰らわなかったのに捕まってしまうので強引に走り去る訳にも行かない。けど時間はまだある。「だから何度も言うけど任意だよな?なら応じなくていいよな?」ニ十分ばかりやっていただろうか。車についていた制服が背広姿に呼ばれた。昼の公安の様だ。制服が戻って来て言った。「もういいです。」
  帰ってから聞いた話では、僕が検問に捕まっていた同時刻に帰宅したある関係者は、自宅の鍵が開けられ通常使っていない部屋の電気が灯されていたと言う。典型的な嫌がらせだ。毎回二十人前後しか集まらず、今日だって二十人をやっと越えただけの小さなデモに、何倍もの警察官を動員した上に違法な嫌がらせとは何を躍起になっている?嫌がらせの類は記録して公開していくからそのつもりで。