茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(345)「なんで睡眠不足なんですか?」

加藤匡通
七月××日(火)
石綿を含む天井を解体している。先月来始めた時はまだ石綿を含んではいない天井の解体だった。どっちもやることは同じだ。この現場は工場なので天井がやたらに高い。それなので通常より広い、足場に車輪がついているようにしか見えないローリングタワーに登って、まず天井材を止めているビスをインパクトで外し、次に天井材を外す。天井材は基本的にはボードをビス止めしているだけなのでビスを全部外せば落ちてしまうから外周だけ外して真ん中一列は残しておく。タワー上の外周ビスを全て外したら真ん中のビスを外して天井材を外す。次に天井材が留まっていた軽天材を外す。軽天材は天井基礎のコンクリから吊りボルトで下げられている下地と下地に留められているものがあるが、ボルトに溶接されているものには手をつけない。軽天はバールで取り付け金具をこじって外すが、手でひねっても外せる。ちょっとこつが必要だが、僕はバールを使うより手で取る方が好きだ。と言うか、一連の作業で一番好きなのがこれである。いや、物を壊すのは実に楽しい。
  ただし、この作業をする際はゴム手袋では危険で、皮手袋を使った方がいい。軽天の断面はコの字になっていて両端は刃物みたいなもんだ。僕はゴム手で軽天を思い切り引っ張っでゴム手ごと指を切って医者に駆け込んだことがある。この時は日雇派遣でも外構屋でもなかったが、恥ずかしくて労災とは言えなかった。明らかに調子に乗っていた自分のぽかだからだ。
  石綿を含んだ天井材の場合、以上の作業をするのに専用のマスクとゴーグルを着け、さらに全身を頭から覆える使い捨ての不織布のツナギを着る。多分冬でも暑いだろうが、この季節にする作業じゃないよな。この現場はさらに石綿の飛散防止のために作業する部屋を丸ごとシートで覆っていて、ほっといても蒸し風呂なのだ。勿論発ガン性物質である石綿の被曝を防ぐのにはこれが正しい。作業員の健康を考えればマスクだけで作業させている現場が間違いではある。しかしこれじゃ別の健康被害が出そうだよ。とりあえず着替えがないと風邪をひいてしまう。ついでに言うと、天井材はどこでも見かけるごくありふれた物である。だが、このタイプの天井を解体していて石綿対応のマスクを着けろと言われることはあまりない。
  この現場の詰所で、話題になっていた『ポケモンGO』が国内で配信とニュースが流れた途端に職種を問わず作業員たちが一斉にダウンロードを始めて呆気にとられた。ポケモンに関心が特にない人までやってるのだ。成る程流行とはこういうものか。でもみんな、自分の位置情報駄々漏れとか気持ち悪いと思わないのかな。そういうのは時代遅れですか?ええ、ワタクシは時代遅れで結構でございます。
この現場では毎朝熱中症のチェックがあって、朝食を食べたか、二日酔いではないか、下痢をしていないか、睡眠不足ではないか、と言った項目がある。僕は睡眠不足の項目にチェックを入れているが、今朝監督に聞かれてしまった。「加藤さんはなんで睡眠不足なんですか?」最近は帰ってからろくに本も読んでないが、それでもなんやかやで十一時を過ぎない布団には入れない。まして会議だの学習会だのがあれば日付が変わることも珍しくない。けど起きるのは毎朝四時半、六時間なんてどうやって寝ろと?まあ、そんなことを丁寧に説明してやる必要もないので「家が遠いからです!」と答えてやった。「あ、その、なるべく寝てくださいとしか言えません。」「努力します!」悪いが僕は賃労働のために生きているのではないのだよ。なんで睡眠時間が短いのか、なんて余計な詮索とは思わないかね?スーパーゼネコンの監督ごときにプライバシーを探られる謂れはない。もっとも、みんな『ポケモンGO』にプライバシー渡して気にしてないけどな。