茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(353)駄目な監督

加藤匡通
九月××日(水)
 マンションの改修工事に入っている。養生・クリーニングと言うより僕には雑の印象が圧倒的に強いL社の仕事である。朝、L社の職人から「今日何の作業って聞いてます?」と聞かれて派遣会社の同僚と顔を見合せた。僕たちはコア抜きの穴のコン打ちと聞いている。そのまま伝えると、ちょっと違うんですよ、と言う。耐震補強で壁を増設、そのコン打ちの後の清掃なんだとか。それは別に深刻は顔をして伝えるような話ではない。二人で戸惑っていると、職人が続けて言った。「昨日来た人、ガラ出し頼んだら、俺は養生しか聞いてないって怒って帰っちゃって。」二人とも唖然とした。日雇派遣ではなく養生・クリーニング屋としての自意識が強ければそうなるかもしれないが、ただの勘違いだよ。そういう話は会社も事前に教えてくれないと。「今日はコン打ち後の清掃をお願いします。コン打ちが終わるまで待機です。この現場ゆるくて、僕も待機多いんですよ。」ラクな現場は大歓迎だ。まあ、きつい現場でも、今のところ途中で帰ったことはないけど、この先どうかまではわからない。
 地下一階の朝礼会場が作業場所だった。その隣は駐車場、住人たちの高級車が並んでいる。朝礼会場に耐震補強で壁を増設、そのコン打ちをするらしい。駐車場の方は既存の壁を、向こう側からはつっている。ブルーシートで養生はしてあるものの、車にシートを被せたりはしていない。さらに車の隣でコンクリ圧送用のパイプを通していて、朝イチはそのための養生が僕たちの仕事だ。養生たってブルーシート敷いて終わり、車のことは考えてない。職長に聞いたら、車への養生は監督がいらないと言ったのだと。車のボディーをそっと指でこすってみた。やっぱり跡がつく。はつりで出た埃が乗っているのだ。そりゃそうだろう。監督は何を考えているんだか。ブルーシートに気密性なんてない、密封して埃を防げると考える方がおかしい。後から仕事が増えるだけ、下手すりゃ苦情が来るぞ。
 そう思っていたら、同じ監督が今度はコンクリ打設用のポンプ車の設置位置をずらせと言い出した。ポンプ屋も警備員も前回と同じ位置だとがんばっている。ポンプ車は駐車場の出口脇に停められている。車の出入りの邪魔になるからもう少し下げろと言いたいらしいが、車の出入り出来る幅は充分にある。下げればアウトリガーが側溝の上になって蓋を壊しそうだからポンプ屋は嫌がっているんだが、監督はそれをなかなか理解しない。一度設置したものを動かして側溝の蓋に乗り上げるのを実演してやっと納得した。ああ、この監督駄目な人なんだ。
  さて、一仕事終えてしばらく待機と職長に言われて詰所に戻っていたら、件の監督が飛び込んで来た。「コン打ち始まってんだから来てよ!駄目だよ休んでちゃ!そのために呼んだんだから。」相方と顔を見合わせる。とにかく監督に着いて地下駐車場に行った。増設する壁は型枠で覆われている、と言うかまだ鉄筋と型枠だけでコンクリートの壁にはなっていないんだが、型枠はコンクリを流し込むために上だけ開けてある。ポンプ屋がポンプの筒先から型枠の開口部にコンクリを流し込み、土工がコンクリを隅々まで行き渡らせるためにバイブを突っ込んだり木槌で型枠を叩いたりしている。開口部には斜めにコンクリのこぼれ止めが付けてあるものの、コンクリは当然床にこぼれまくっている。職長は開口部から見えている鉄筋の洗いでずっとコン打ちについていたが、L社全員がコン打ちに駆り出されるとは聞いていなかったらしい。「悪いけど監督の言うこと聞いてやって。」監督がこぼれたコンクリをすくって開口部に入れろとバケツと角スコを渡して来たので相方と二人でコンクリを開口部に入れ始めた。これは土工の仕事だ。昨日派遣会社から来た奴が帰った責任の三分の一くらいはこの監督に責任があるかもなと思いながらオリオンと呼ばれる踏み台に登ってバケツの中身を型枠の開口部に突っ込む。職長が聞いてないと言うことはきちんと打ち合わせが出来てないと言うことだ。あの監督に対する評価がどんどん下がっていくな。
  増築分の壁が終わり、残りは柱一本になった。この柱も既存に耐震補強、型枠に囲まれている。ここでポンプ車が止まった。生コンが途切れたらしい。今追加を頼んだから次は四十分後だと監督が言っている。「それじゃ駄目だってこの前言っただろ!」ポンプ屋が怒鳴っている。またか。ポンプ屋は筒先を柱に移動…あれ、ホース片付けてるぞ?土工も片付けて始めてるぞ!コン打ち終わりなのか?だが壁がいっぱいになった段階での監督の指示は「柱に入れろ」だった。洗いの終わった職長が近づいて来て「これ俺たちにが打たせんのかよ。聞いてないぞ。」。ポンプ屋も土工も完全に撤退してしまった。多分、文句を言われて監督が面倒になり帰してしまったのだろう。この場合監督は二重か三重に対応を間違えている。この柱にポンプで打設したら五分てとこだ。十分なんて絶対かからない。それを僕たちが三人でやったらどれだけかかると思ってる?いや時間と労力もかかるが、ちょっと酷くないかこの対応。こいつ僕たちを何だと思ってんだ?そうは思っても職長飛ばして派遣の人間が監督に噛みつく訳にもいかない。駄目な監督に当たったと思うしかないか。それに、作業そのものは外構屋時代の狭い場所でバケツを担いでのコン打ちに比べれば全く持ってラクなものだ。
 やがて生コン車が到着し、一輪車に二台の生コンが運ばれて来た。相方がスコップで生コンをすくいバケツに入れ、僕はそれを持ってオリオンに上がりバケツを担ぎ上げて開口部に生コンを入れる。職長はもう一台の一輪車から塵取りで生コンをすくってバケツに入れ、開口部に入れている。一人でやってる職長の方がはるかに大変だ。型枠は何屋なのか知らないが、他の職人が木槌で叩いている。外構屋の時に比べりゃラクだが、鼻歌歌って出来る作業じゃない。僕は肩に荷を担いで踏み台昇降をしているようなもの、相方は慣れないスコップ作業、僕も相方も汗だくだ。
 三十分も続けたろうか。型枠の淵まで生コンが上がりコン打ちは終了した。もう十二時を過ぎている。十時の休憩もなかったので二時まで長い昼休みをとり、コン打ちの片付けをして三時になった。あとは詰所前の掃除だけだからもう帰っていい、と職長。有り難く帰らせてもらった。多分、今日の予定外のコン打ちと昨日の件があるから僕たちに気を使ったのだ。何だか申し訳ない。
  監督なんてものは大体職人・作業員の怨嗟の的である。ゼネコンの「できる」監督なんてのは下請けを苛めて評価を上げるものだ。それとは別に、仕事が出来る訳ではなく指示や判断が曖昧で迷惑をかける監督もいる。どっちにしろ下請けが困るのひ変わりはないので現場では「監督なんて馬鹿ばっかりだ。」なんて言われたりする。現場で最下層の土工や雑工にそう言われたら当人も頭に来だろうが、今日みたいのに当たればそうも言いたくなるさ。