茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(361)よせばいいのに記録をつくる

加藤匡通
一月××日(火)
 千葉での鉄筋こすりはまだ続いている。試行錯誤を監督に一蹴され、ワイヤーブラシでこすってから仕上げにスコッチでこすっていたやり方はスコッチでこするだけに変わった。監督がそれほどきれいな鉄筋の錆落としを求めていないことに気付いたからだ。それにスコッチだけの方が当然早い。人も入れ替わり当初職長をしていた養生・クリーニングのベテランは早々に逃走、今は僕が職長をしている。もっとも、職長と言ったって名ばかり、らしいことは何一つせずただ鉄筋をこすっているだけだ。
  去年のそろそろ年末と言う時期に呼ばれた時は二日目が雨予報だった。それまでに、三人で二日だとかなりの余裕を持って終わるようになっていて、二日目は二人でも大丈夫とは思っていたが、それはこちらから言い出すことでもない。雨を避けて二日目を年明けにしても出荷には間に合うと言われたものの、年明けに雨が降らない保証はない。年明け早々の仕事が雨に濡れながらの鉄筋磨きでは寒いばかりか精神的なダメージも大きかろうよと話し合い、年内二日で終わらせることにした。雨予報は十時頃からとなっている。一日目を目一杯がんばって二日目をなんとか雨が降る前に終わらせようかと。
  鉄筋が付いている物はコンクリのパネルと呼ばれているが見た目は板と言うよりは巨大なブロック、それに五十センチ程度の鉄筋が二列になって片面に突き出ている。鉄筋は二列で六十か七十ある。置場所を有効に使うためだろう、鉄筋の出ている面同士を向かい合わせて置いてある物が多く、当然そうなるとやりづらい。鉄筋同士で重なり合ったりしていると曲げなければ磨けず、終わったら元に戻さなければならず手間は増える。このブロックが一階分で二十九ないし三十二個ありこの工場ではピースと数えている。年末の作業では二十九ピースだった。
  年末の一日目は三人で二十三ピースを終わらせた。面倒な鉄筋同士がかぶっているピースは一日目にやっつけた。二日目を少しでもラクに終わらせるためだ。時間に余裕はあって四時過ぎには現場を出れた。五時近くになると駅へと同僚を送る道が混むので早目に上がりたいのは人情である。そんな余裕があるのなら一日で終わらせろと言う人がいるかもしれないが、それは仕事がきつくなるだけ、しかも日当も一日分なくなる。経営者目線だと一日で終わらせ元請への印象をよくしようとなるのかもしれないがこちとら日雇派遣のアンダークラス、仕事はラクな方がいいに決まってる。人区を減らさないためには時間調整もするさ。それに三人で一日は出来るかもしれないがちときつかろう。
 そして二日目。三人目がこけてしまい二人になってしまった。六ピースを雨が降って来るまでに磨かなければ。二人ともシャカリキになって鉄筋をこすりまくり、なんと九時過ぎには終わってしまった。一ピース二十分、当然新記録だ。相方と顔を見合わせ、車で待機することにした。いくらなんでも早過ぎる。これじゃ監督から二人で一日と言われかねない。もちろんこんなのはいつ雨が降るかと追い立てられたから出来たのであって普段じゃとても出来ない。雨は十時近くになってようやく降り出し、詰所もない中の待機に耐えられるはずもなく十一時半には現場を出た。
 さすがに人区は減り、今回は一日目が三人、二日目は二人になった。そりゃ減らすよなあ、昼前に帰りゃあ。昨日は時間調整をしながら三十二ピース中二十二ピースをやり、今日は二人で十ピースである。なるべくゆっくり、と言ったって限度がある。昼休み明けには終わってしまい、夜には都内の学習会に行かなければならないので夕方まで現場に居たくないと言う個人的な事情もあり、二時過ぎには監督に日報にサインをもらいに行った。「余裕ですね。次は四人にしましょうか。大丈夫ですよね?」うん、まあそうなるよな。