茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(常雇?)(406)『回想・馬渕薫』または収支はマイナス

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(常雇?)(406)『回想・馬渕薫』または収支はマイナス
加藤匡通
六月××日(木)
同じ設備現場が続いている。正確に言うと雨で四日手配が中断されて他の現場に行き、また戻された。昨日はコン打ちのはずだがスケジュールがずれてコン打ちがなくなったと派遣会社からは聞かされて、そのつもりで行っらコン打ち相番で愕然。長靴は現場にあるものの、ゴム手もなく、合羽だけだ。しかも昨日は雨。当日その場でコン打ち相番と言われても、意気は上がらない。電気、空調、衛生の三者がコンクリート打設で相番をするのは配管の類いを潰されたりするのを避けるためだ。だが、菅が潰れたりずれたりしてもとっさに派遣会社の雑工や養生・クリーニング屋に適切な対処ができる訳がない。結果、派遣会社から来る相番はバイブのスイッチ係となる。現場の設備、電気の人間派遣会社から来る相番にその場での対応は期待していない。
で、昨日の雨の中のコン打ち相番、十時三時の休憩もなく昼は三十分だけ。バイブは最初三本だったのが二本になり、思い出したように三本目が使われるだけで、僕がその三本目担当。バイブが使われていない時は他の二本のコードを捌いたり、なんてほとんどしていない。そんなに頻繁にコードなんか動かす必要もない。なのに相番は解除されず、五時まで付き合わされた。梁だの柱だのが面倒でこちらが思うより時間がかかったのだ。この数日は涼しくてその中での雨なので身体もすっかり冷えちまった。
残業一時間半が着いたものの釈然とせず、気分を変えようと古本屋に寄ってみた。現場最寄駅は古本屋が多くて有名なところでもある。電車から見える店には入ったことがないと気づいて覗こうと思っていたのだ。目当ての店にたどり着く前に他の店に寄り道したくなるのをこらえて、目指す店に到着、店前の百円均一の棚を見始める。すぐに『ウォブリーズ』を発見してびっくり。これ百円なの?ここ、そんなに宝の山が眠ってるの?『ウォブリーズ』は既に持っていたので手を出さなかったものの、百均棚だけで七冊掘り出してしまった。これは店内を真面目に見て廻ると大変なことになりそうだからなるべく見ないようにしようと思いつつも店内の棚についつい目が行ってしまう。運動関係の本も多いし郷土史の棚まである。もう買わないつもりで棚を見ていると、郷土史の中に『回想・馬渕薫』と言う背表紙を見つけた。映画の棚にないし、同名異人かと思いながら手に取ると、八十八年発行の、東宝特撮の脚本家馬渕薫の追悼集だった。え、こんな本あったんだ!企画編集が馬渕薫を偲ぶ会となっていて、遺族の連絡先が出ている。商業出版じゃない。価格記載はなく、店の売価が二千円になっている。これは今買わないと二度と手に入らないかもしれない。レジに向かい『回想・馬渕薫』を出してから、こっちは棚に戻したいんですが、と百均の七冊を出す。こちらで戻しておきます、と店員。これはこの何年かで最大の収穫かもしれない。
馬渕薫は五十年代、六十年代の東宝特撮映画を関沢新一と共に支えた脚本家である。『ガス人間第一号』や『妖星ゴラス』『マタンゴ』『サンダ対ガイラ』が代表作だろうか。戦前から戦後の早い時期にかけては共産党の活動家でもあって、脚本にもその息吹きは残っている、とは東宝のスタッフたちが証言している。あまりインタビューなどが残っておらず、脚本家時代のみならず活動家時代のことなどわからないことが多いけど、今回の本は活動家時代の話が多く嬉しい。なんでこの人の脚本集や評伝がないのか不思議でならない。もっとも実は円谷英二のきちんとした評伝すらないのだから仕方ないのか。僕たちのレベルはまだまだそんなところってことなんだろう。そんな基礎的な研究も出来てないのにクール・ジャパンとか笑わせる。
コン打ち残業のマイナス感は『回想・馬渕薫』で帳消しになった。そして今日。鉄筋屋が一段落した午後になってから僕たちの仕事が始まった。鉄筋が組まれた梁の中へのスリーブ、金属菅の設置である。梁の配筋の中、決まった高さに取り付けるんだけどウェブレンと言う鉄筋枠に納めてセパをかわして、と面倒でかなりの手間だ。組上がった鉄筋の中に手を突っ込んでの作業、全然進まない。だが今日中にやらないと明日はこの場所での作業そのものがやれなくなるとかで、今日中にやれと。空調の監督は残業出来るかとこっちの都合も聞きやしない。なし崩しで一時間の残業になった。気分が悪い。昨日帳消しになったマイナス感がまた。結局収支はマイナスだな。