茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(常雇?)(414)映画の中にいつもの景色を見る

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(常雇?)(414)映画の中にいつもの景色を見る
加藤匡通
九月×日(火)
   八月は映画を一本しか見てなくて敗北したと思った。
  友人が勧めるので東中野で『あみこ』を見た。一週間限定レイトショー上映の最終日に行ったら、僕は入れたものの、通路までいっぱいで十時半から追加上映まである盛況ぶり。車社会の茨城ならともかく、都内でこんな時間から上映は珍しいが短い映画なので終電前に余裕で上映は終わるのだ。肝心の映画は僕にはイマイチだったが、まあいいや。
  映画を見る前に少し時間があったので東中野の古本屋を探したが、目当ての店は休み、と言うより東中野では営業していないのだろうと言う感じでシャッターが下りていた。代わりに、と他店に比べて独自色が強いと言われていたBOOK・OFF東中野店に行ってみた。確かに他のブックオフに比べると古本屋らしい本が多い。けどさ、サンリオSF文庫が一律二百円ってどーゆーことよ?
  古本屋を探す途中に銭湯を発見、まだ入っても充分間に合う時間だった。だが咄嗟に口から出たのは「今の僕には贅沢に過ぎるな。』で、自分で言っといて自分の状況を再確認してしまった。いや、今年に入ってからほんとに首が廻らん。銭湯に入るのを躊躇うくらいだ。まあ、自宅に風呂はあるからわざわざ外で入らなくてもいい訳だが。
  昨日やっと『万引き家族』を見た。見たのは船堀シネパルだが、現場は全く違う場所なので、映画を見るために都内を横断している。全国でも珍しい自治体が運営している映画館だが、現在は民間に委託している。公営の映画館でかつて有名だったのは夕張市民会館だが、今はどうなっているのだか。船堀シネパルはこれで三回目だと思うんだが、最初に何を見たのか覚えがない。前回は『日本海大海戦』を見ている。円谷英二が最後に特技監督をした日露戦争の映画である。圧縮空気を使った爆発の水柱が素晴らしいと特撮ファンに評価されている作品だが、退屈だった記憶しか、いやそれすら忘れかけている。卒論書いてた頃ならた違ったんだろうけどなあ。
   公開から三ヶ月経った平日夜六時半なのにまだ三十人入っている。大したものだ。客が入ることもだが、上映が続いていること自体も、だ。一部の都市を除いて名画座や二番館は絶滅し、地方ではシネコンが二番館の機能を担っているものの上映されるのは有名どころばかり。せっかく『 ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』や『ウォール・フラワー』が来ても、まさか地元で上映されるなんて思ってもいないから都内で見てしまっている。『万引き家族』はつくば近辺での上映はだいぶ引っ張ったものの、流石に近くではもうやっていない。柏も野田も時間が合わないし、来週やるらしい笠間は遠すぎる。それからすれば都内横断などラクなものだ。
  で、リリー・フランキーである。共演している安藤サクラ樹木希林も充分化け物なのだが、リリー・フランキーの場合あれでそもそも俳優ではないのだから恐れ入る。しかしここで言いたいのはそう言うことではない。リリー・フランキーの役柄はおそらく僕と同業なのだ。日雇派遣なのかはわからないものの、建築現場での手元や雑作業が中心の、現場では土工雑工と呼ばれるおそらくは日払いの仕事である。朝、会社集合で車で現場に行くとかは土工を思わせるが日雇派遣だってそういう形態がないわけではないだろうし、土工だとしてもコンクリート打設や根切りと言った専門職の土工ではなく、片付けや雑がメインだろう。朝起きて「今日行くのやめようかな。」とぼやくところからして身に覚えがあり過ぎる。新築の小ぶりなマンションとおぼしき現場の景色は、やや片付き過ぎていてきれい過ぎるものの僕が見ている景色と同じだ。彼らが乗っているエレベーターが、このブログの中でロングスパンとかフィアットと呼んでいる物で、リリー・フランキーが覗き込む、がらんどうの剥き出しのコンクリートの部屋内にユニットバスが小部屋ごと立ち、床に赤や青の配管が通っているのもよく見る光景だ。いや、映画館でそんな見慣れた景色を見ようとは。
   現場で事故って、しかし労災が適用されないと言う展開は、小さい会社ならあることである。僕自身何度か経験している。全額自腹は、口封じの意味もあるのだからあまりないように思って見ていたら、終盤の展開で納得がいった。安藤サクラリリー・フランキーの夫婦はある理由から偽名で生活していたのだ。そりゃ足下見られるわ。これも、多分よくあることなのだろう。名前を偽ろうがとにかく働かないと生きていけない社会だからな。
  映画は南千住のバス停で終わる。つまり山谷のすぐそばだ。ここからも、この映画が今のこの国の家族の問題だけでなく階級の問題を描いていたことがわかる。カンヌは余計だと思うが、いい映画だったよ。
   邦画で建築現場を描いた作品の記憶はあまりなくて、最近だとやっぱり安藤サクラつながりの『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』ぐらいしか思いつかない。工場ならいくつか思いつくんだが。思い出したのは『ダークマン』や『パシフィック・リム』と言った洋画ばかりだ。変わったところでは『アニマトリックス』に、延々と続く巨大な足場の描写があって、現場の足場板をあんなに大量にアニメで見るとは思わなくてびっくりした。
  工事現場から出てくる怪獣っていなかったっけ?『サラマンダー』は地下鉄工事の現場から竜が甦って文明社会を滅ぼす話だけど、邦画で。『ウルトラマン』か何かのテレビドラマとごっちゃになってるのか?