茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(常雇?)(422)『恐怖の報酬』の代償

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(常雇?)(422)『恐怖の報酬』の代償
加藤匡通
十二月×日(月)
  朝、いつも乗っているみらい平駅五時四十四分発に間に合わなそうと思うと車を使ってしまう。もちろんガソリン代も駐車場代も無駄だし、歩いた方がいいに決まってるのだが、歩いて駅まで行くより車を使ってしまう方が多い。
  今朝もそうだった。フロントガラスに霜が降りている車のドアを開け、ハンドルの根本に鍵を差し込みエンジンをかけようと、鍵が入らない。何だこれ?鍵穴にふたがされてるみたいだ。ハンドルもロックされている。時間がないわけだから慌てていて、ゆっくり冷静な対処が出来ない、と言うか多分少し車に詳しければ何でもない、トラブルですらないようなことなのだろう。しかし僕は車に関心の全くない、鍵を回すと動き出す道具としか思っていない人間である。「えー、マジかぁ。仲良くしようよ〜」とか言っても相手はナイト2000でも超ロボット生命体でもないので答が帰ってくるはずもなく、少しいじって諦めた。どの道四十四分にはもう間に合わない。電車を一本遅らせて駅まで歩こう。座れないかもしれないが、駅前でゆっくりする時間がなくなるだけで時間に余裕はまだある。そうは思うものの、朝から嫌な気分だ。この車、車検そろそろだけどどうするかな。気が重い。
  帰りに新宿で映画を見た。『恐怖の報酬』ウィリアム・フリードキンのリメイク版、油田火災を吹き消すために山の中、古くなった不安定なダイナマイトをトラックで運ぶと言うあれだ。昔、熱烈な映画ファンと言う訳でもない友人から「あれは現代の状況を象徴しているんだよな?」と尋ねられ、未見だったのであわててレンタルビデオ屋に行った覚えがある。オリジナルのアンリ・ジョルジュ・クルーゾーによる『恐怖の報酬』は中学の時にNHK教育の『世界名画劇場』で見てはいたが、その時には見たと言う記憶しかない。借りたのは日本公開版ではなくオリジナル全長版で、傑作だった。友人とは疎遠になってしまったが、この映画を教えてくれたことは今でも感謝している(陶山、元気か。)。クルーゾーのオリジナルは後に映画館で見た。食いつめた日雇労働者の、こちらも充分に殺伐とした映画だが、リメイク版を見るとオリジナルが牧歌的に見えてくる。今回リメイク版をようやく劇場で見た。自宅の小さなモニターで見てイマイチだった映画を映画館で見て傑作だったと愕然とした経験が何度もあるので、僕の中で評価が確定するのは映画館で見てからなのだ。やはり傑作だった。どうにもならずに逃げた先もやっぱり地獄で、地獄から逃げようともがいても最早逃げ場などない。僕は映画館で希望ではなく絶望を味わいたいのだろう。
 帰り道、飯喰ってさあ帰ろうと改札前で回数券をまさぐり青冷めた。小銭入れごと回数券がない。飯屋?いや、暑いからと上着を脱いだ映画館だろう。歩いてる最中に無意識に触って落としていたらどうにもならない。映画館に電話をすると、落と物はなかったが、上映中の回が終わったらまた捜してみると言われた。出てきてほしいなあ。つくばエクスプレスは高いので回数券は一万円近いはず、朝からこんなのばっかりだ。