茨城不安定労働組合

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日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(447)全人類共通の願い

日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(447)全人類共通の願い
加藤匡通
十一月××日(金)
    爪に穴が空いた。
    話は八月初めにさかのぼる。「加藤さん○○さんと一緒にカゴ台車移し変えておいてよ。」と言われてカゴ台車の部材を平台車に移し変えていた。カゴ台車とはこの場合網目の台車である。目は大きく両手が入るくらいで当然小さな物は乗せられない。だが鉄板の台車に比べれば軽くて扱いやすいし、物をしばらく貯めておくのに便利なのでよく使われている。ちなみに鉄板の台車は平らなのでヒラ台車と呼ばれる。
 台車の部材は配管関係の物ばかりだが片手で持てそうな段ボール箱で、軽い物が多かった。二人だったが手渡しではなくそれぞれに箱を取り出し移し変えていく。こういう作業をしていると、別に急ぐ訳でもないのについついペースが上がってしまう。相方は僕より十上、そんなに急がなくっても、て顔でゆっくり作業をしている。一番重い部材はストレーナーと言う、配管掃除の際に管を外したりしなくても掃除出来るよう取り付けられている金属製の部材で多分五キロを越えている。あ、この間やっている作業は空調関係の水配管で、塩ビ管ではなくどれも金属製だから。だから配管その物も、サイズと長さによってはえらく重くなる。けどそういう物を持つ時は、始めっから重い物を持つと思ってるから、失敗はあまりない。
    だかストレーナーは不意打つだった。片手で五キロは重い。いやもちろん片手で持った訳じゃないんだが、持ち上げてバランスを崩し着地に失敗、指を挟んだ。ご丁寧にも段ボールの中のストレーナーと段ボールの中のストレーナーの間に挟んでいる。「痛って!」左手の薬指の爪の生え際だ。軍手を外して見てみると、幸い血も出てないし皮も剥けてないがとても痛い。こりゃ爪剥がれるかも。
「どうしました?」相方が聞いてくる。「つまんない怪我しないで下さいよ。」つまんない怪我をしたくないのは僕だけでなく全ての作業員、いや全人類共通の願いのはずだが、この願いがあること自体、全人類がつまんない怪我から解放されていないことの証である。全人類のつまんない怪我からの解放を!ん、そういう話じゃなかったな。
    小さな怪我は現場に付き物だが、それらが元請けに申告されることはない。スーパーゼネコンはどんな小さな怪我でも報告するようにと言うが、それはあとで医者に行かれて労災隠しと言われるのを嫌がっているだけで、本当に申告すれば監督は嫌な顔をする。その上、事故が何故起きどうすれは再発を防げるかを作業員全員、つまり現場全体に周知する周知会が行われ、晒し者になって真面目な作業員からは仕事の時間を潰しやがってと言われるのだ。多少の怪我ならみんな誤魔化しる。僕もこの日記に書いていない怪我がいくつかある。
  びくびくしていたものの、結局左手薬指の爪は剥がれなかった。爪が伸びていくに従って爪の下に血豆が現れ、その部分はやや盛り上がっている。爪の一部が黒くなっているのでびっくりされたるはするものの、実害はなかった。そして三ヶ月、血豆は段々指先へと上って行く。おお、爪が伸びるのをこんな風に実感するとは。だかある日、血豆の一番下に小さな穴が空いていることに気が付いた。爪の下の皮膚が見えている。しかも昼に気づいて夜にはやや大きくなっている。成長するのか!これは不味い。やはりあの時の衝撃は大きく、爪が薄くなっている上に血豆で圧迫、さらに冬場の乾燥で穴が空いたと言ったところだろうが、ほっといて割れたり剥がれたりすると困るのでエキバン塗っとくか。