日雇派遣日記 賃金奴隷な日々（一人親方）（４６８）罰ゲーム、そしてルール変更
加藤匡通
七月××日（木）
前に入った新規開業の店に金曜から三人で入っている。当初、月曜までかからないかもしれないが、可能な限り伸ばせと言われた。この現場がなくなれば今週の仕事はなくなると聞いている。作業は厨房の器具取付とそのための配管だ。器具取付はシンクの蛇口とかの類である。だが、始まったら結構な分量があって、引き伸ばしなんか考える必要はなかった。水曜が消防検査なのでそれまでに全部終わらせないと。まあでもさすがに水曜まではかかんないだろ。
月曜、午後になって社長に電話をすると、明日はないと言われ、そのつもりで作業をしていた。しかし三時を過ぎてもまだかなり取り付け個所は残っている。実際には器具だけでなく、給排水管をつけなければならないし、さらにその後水漏れがないかの確認の検査もしなければならない。器具取付なら僕も出来るが、配管となると怪しい、いや出来ない。水が漏らないという自信は全くない。
五時を過ぎてなし崩しの残業が始まった。この段階で器具取付はほぼ三分の一残っている。職長は「休憩しよう。」と口にしながら一向に手を止めようとしない。僕ともう一人、職長の下にいるが、見る間に険悪な雰囲気になっていく。当たり前だ、いつになったら休ませるんだよ！七時過ぎに設備の監督がやっと来て、進行状況を見て言った。「今日はキリのいいところで終わりに終わりにしたして明日やりましょう。」腰が砕けた。三時間残業だった。
火曜、朝社長と顔を合わせたが、やっぱり明日はないと言われ、その気になった。職長は「今日は午前中で終わりにしたい。」と言っている。今日は二人だけど、昨日やったから残りはそんなにないはずだ、どうにか午前中には終わるんじゃないかな、と僕も思った。
取り付けを一通り終えて午後、設備の監督がやってきた。「あれ、ここどうして塩ビ管にしたの。フレーキでこっち通して言ったじゃない。こっちもこれじゃだめだよ。」どうも職長がきちんと指示を聞いていなかったらしい。「加藤さん、ここ直して。」昨日までは固定されていなかったので、シンクを動かしながらやっていたが午前中に固定され、もう窮屈なところに身を潜り込ませて作業するしかない。僕が寝ころんだに近い状態で塩ビ管を外しだしたのを見て、建築の監督が笑いながら言った。「あれ、またそこやるの？」僕もそう思ってるから言わなくていいっす。厨房屋や電気屋は、まだやってんのかって顔でこっちを見る。冷房の効いている中、腕をくねらせ必死になって配管を外してまた取り付け、汗だくになった。
五時を過ぎてから、さらに追加でガスレンジの上に消防検査のために鉄板の仕切りを付けてほしいと言われた。これはV社の本来の仕事ではないよなあ。金物屋の仕事か。職長は水漏れの検査をしている。配管工だと思ってる職人たちはこんな仕事は嫌がるだろうが、僕は雑工だと思っているので気にしない。しかしこれが難物だった。薄い鉄板をビス止めするのに下穴を開けたり、取付位置が悪くて手が入らず一度取り付けた鉄板を全部外したり、二時間たっても一枚付かない。職長からは水が漏れていると聞こえてくる。これは明日もここか。
建築の監督は「作業は八時まで。」と言っている。建物の管理者がそれ以降の作業を認めていないらしい。八時直前まで作業をしていたが、八時には着替えも出来ずに現場から放り出された。仮囲いの前で着替えてやろうかと思ったが、人通りが大変多いところでどうせ後で文句を言われるので止めてやった。
秋葉原で乗り換える直前に床養生が全部捨てられていたことを思い出し、ブルーシートを買いにドン・キホーテに走る。すぐ引き渡しだと言うのに床の上に直接部材や道具を置いて作業するのは不味いだろ。傷をつけたら何を言われるかわからない。設備の監督は二人いるが、若い方は本当に只いるだけで何もしない。多分新しく養生材が必要なこともわかってない。一応職長に確認の電話をする。「買っといた方がいいですよね？」「俺の分も買っといて。」はいはい。つくばエキスプレスに乗ったのは九時半過ぎだ。
水曜、設備の監督は消防検査が一時からなので十二時には作業を終わらせろと言ってた。今日こそ映画が見れる。必死になって鉄板二枚を取り付け、他のものも終わらせる。だが水漏れ検査は残っている。これはやっぱり検査後？昼を食べに出ると職長から電話があった。「三時十五分集合だって。」長い昼休み？いや全くうれしくない。
結局水漏れの直しその他をやっていたら六時になった。どうやら罰ゲームにはまっていたらしい。明日からは罰ゲームのルールが変わって、仕事がなくなる。次は月曜からと言われている。やっと休みだ、わーい！
そして今日。昼に職長から電話がかかって来た。「加藤さん残業全部で何時間？」「月火が三時間で昨日が一時間ですけど。」「んー、昨日は待機時間が長かったから残業にはならないよ。」あー、もうやだ。罰ゲーム終わりにしてくれ！
