茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(486)「映画なんか、見てる場合だ。」と言いながら『ヒッチャー』を見る

日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(486)「映画なんか、見てる場合だ。」と言いながら『ヒッチャー』を見る
加藤匡通
一月×日(金)
 一日だけ目の前の現場から戻された。この場合の目の前の現場とは元いた現場のことだ。Z社は今日でこの現場が終わりらしい。今回は前日に連絡があったので朝礼にも間に合った。なんだ、やればできるんじゃないか、○○さん!
 職人の手元として動いていたら監督が「桝が潰されているので加藤さん掘りだして下さい。」と言ってきた。縦配管で頭が地上に出たところで蓋をする予定が気付かず埋めてしまったらしい。

 ところが言われたところをスコップで掘っても何も出てこない。監督も実は応援で来ているのでそこに桝があること自体知らなかったそうで、「ここにあるはずなんだけどなあ。」とか言ってる。地面は幸い舗装前だが、砕石が敷かれ転圧がかけられた上に重機が何度も通っていてすっかり固く締まっている。ピックで斫って柔らかくして掘っていくが三十センチ掘っても何も出てこない。それでも他の桝との位置関係からここだと五十センチ近く掘ると、砕石の中から塩ビ菅の蓋の欠片が出てきた。「こりゃ砕石全部詰まってるなあ。桝まで千六百以上あるぞ。」
 掘り進めるとその通りだった。ご丁寧にユンボで何度も通って菅の中に砕石を送り込んでしまったのだ。これ、全部掘って菅の砕石取らないと駄目ですか?もちろん駄目だ。管に手を突っ込んで砕石をかき出し、手が届かなくなったら立管の周囲を掘って管をむき出しにして輪切りする。それでまた手が突っ込めるようになる。管の周囲と言っても僕が入る空間も作らないと輪切りも書き出しも出来ない。周囲は砕石から土に変わったものの、結構な手間だ。僕の身長にやや及ばない程度まで掘って昼になった。

 そもそも何で手掘りなのかと言えば、設備のユンボを昨日で引き揚げているからだ。建築のユンボは何台かあるが、どれも使われている。ところが昼休み明けにユンボがやって来た。え、空いてないんじゃなかったの?たちまち管の隣に二メートル程の穴が掘られた。これで作業は大幅に進み、残りは砕石を全部かき出して管を交換、三十分で終わった。ユンボが穴を掘るのに要した時間は三分だ。僕の半日は何だったんでしょう、監督?「え?加藤さんこれ全部手で掘りたい?」いえ何でもありません。
 今日、前回に輪をかけて中途半端な緊急事態宣言が出た。金を出したくないからと形ばかりの対応策としか思えない。今回は飲食店に規制をかけるだけらしい。そんなで効果あんのかよ?
ヒッチャー』と言う映画のリバイバル上映が今日からだ。三十五年振りの初日となる。高校の時に一度だけ、とうになくなっている渋谷の東急レックスで観たきりだが、強烈に焼き付いている。上映時間を数日前に確認して、この現場でも間に合うと安心していたが、緊急事態宣言で八時以降の上映を中止する映画館が多い。電話で確認したら最終回が繰り上がっていた。ええ、間に合わないじゃん!

 少しだけ早く仕事が終わり、携帯で新宿への到着時刻を確認するとぎりぎりで間に合う。走った。もう五十二歳で息続かないよ。どうにか間に合い、ルトガー・ハウアーに引きずり回される地獄巡りを堪能する。上映中にまた来よう。
 映画館で、正確に言えばつくばのシネコンで、何度かU-NEXTのコマーシャルを見ている。前にやっていた太田光が出てる「もっと映画が見たいんだよお!」はうるさくて嫌いだった。前に書いたようにAmazonファイアスティックは無料でもいらないくらいなので配信サービスに好感なんて持ってない。だが今回のコマーシャルは気に入った。テレビ放送された映画をビデオに撮り貯めるのは僕たちの世代の映画ファンなら覚えがあるだろうが、なんといっても惹句がいい。「映画なんか、見てる場合だ」「人生にムダな時間を」今の情勢で、企業がこう断言するのは勇気のいることになってしまったと思う。断固支持する。