茨城不安定労働組合

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日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(502)現場で西部劇は出来ない

日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(502)現場で西部劇は出来ない
加藤匡通
六月××日(火)
    午前中は雨の中、スリーブを入れた。合羽を着ての作業に、元から少ないやる気はどんどんなくなっていく。スリーブは二十本、午前中には七本しか入ってない。
 今回は地中梁にスリーブを取り付けた。地中梁は建物の一番下の梁で、完成した建物ではピットになる。通常の梁に比べて高さがあるし幅と言うか厚みもある。厚みがあるとどうなるかと言えば、一人だと反対側に手が届かず、スリーブ本体の固定もウェブレンの固定も難しくなる。ところが二人でやると一人がウェブレンを持ってもう一人がそれを結束して、で半分以下の時間で終わる。
    場所によっては大工が型枠を半分、片側だけ建ててしまっていたりして、そうすると一人で取り付けをせざる得ず、ヘルメットを脱いで鉄筋の中に体を突っ込んで作業する破目になる。午前中に七本しか出来なかったのは雨の中で、しかも半分以上がこの壁際だったからだ。鉄筋で顔を擦ったり下手したら目を突く可能性もあるし、身動き取りづらいことこの上ないので鉄筋の中に入っての作業なんてしない方がいいに決まってるんだが、型枠が建っちゃったんだから仕方ない。大工のフライングじゃないかと思うが、設備は建築に対して弱い立場なので文句も言えないのだ。
 現に僕たちが作業している鉄筋の前に型枠大工が部材を置きそうになって、そこで作業するので部材を置かないで欲しいとやんわり言ったら「それが俺と何の関係があるんだよ!」と怒鳴られて、二人で顔を見合わせてしまった。僕たちが来る前に設備と大工の間に何かあったのかも知れない。けど僕たちは今日がこの現場の初日だ。随分な対応である。家族に邪険にでもされてんのか?
    今回の仕事はV社が三次だから僕は一人親方なので四次になる。一緒に作業をしているのは三次の会社の人間だ。その彼が、昼休みが開けると聞いてきた。「やっぱり今日終わらせないと厳しいみたいで、加藤さん今日残業できますか?」他の日に彼がこの現場に来る余裕はなく、かといってV社のような下請けも頼めそうにない。だから今日中に作業を終えないと厳しいと言っているのだが、正直そんな都合は知ったことではない。とは言えこの作業は一人では厳しい。「六時までなら。」お人好しだ。
    結局六時半までやった。スリーブは二十本全部取り付けた。三時の休憩なしでやったのに残業は一時間半だと言う。なんと言えばいいんだか、やってらんない。この彼は人使いが荒いのを忘れてた。次から残業は断るべきだな。
    この現場は大手が元請けで、だからだろう、色々うるさい。新型感染症対策もうるさくなっていて、現場ではマスク着用になっている。そんなの当たり前だろって?いやいや、この現場、と言うかこのゼネコンは通常のマスクに重ねて現場独自のマスクを使用するよう求めているのだ。朝礼直前に全員がヘルメットに三角の布を取り付けるのを見た時は何が始まるのかと思ったよ。
    飛沫防止なんだろうけど、そもそも建築現場はそんなに至近距離で顔を付き合わせるような作業は多くない。詰所ならまだしも、現場でマスクを二重にする意味がどれだけあるのか疑問だ。しかもこのマスク、業者毎の買い取りなんだとか。三百五十円だそうだ。この国の大企業はそうやって 下請けから吸い上げることで肥え太っていったんだな。
    このマスクは通常のマスクの上に着けているので、当然暑苦しい。その上目線を下げると視界を遮る。足下が見えないのだ。これ、建築現場じゃ致命的な問題なんじゃないかと思うんだけど、監督たちは危ないと思わないのかな?現場で転倒事故を起こしたり熱中症になるより、新型感染症の方が危険なのか?
 このマスクを見て、真っ先に西部劇の強盗が着けてる、顔の下半分を隠してるあれを思い浮かべた。朝礼の後、一斉に現場から近隣の銀行に向かうのかとちょっとわくわくしたが、残念ながらそんなことはなかった。当たり前である。しかし、西部劇ならマスクで顔を覆っても様になるが、現場でヘルメットにマスクを付けるのではまるで様にならない。みっともないだけだ。
   とは言えゼネコンが搾り取るために強盗の格好をさせるのは当然のようにも思える。何せ財産は盗みだからな。