茨城不安定労働組合

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日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(508)「今まで何して来たんですか!」

日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(508)「今まで何して来たんですか!」
加藤匡通
九月×日(水)
    集合住宅の排水菅更新現場は続いているが、残業地獄からは解放された。各職の連携が取れるようになって流れが出来たらしい。定時は六時だがたいてい五時には現場を出られるようになった。

 とは言え緊急事態宣言下、映画館も早く閉まったりもする。それに現場は都心部とはちょっと距離がある。なかなか見たい映画も見れない。
 僕は交換した配管の穴埋めをしている。V社からの人間は僕以外は配管交換そのものをしていて、僕だけ雑に回っている感じだ。排水管を取り除くためにコンクリを斫って、その穴に新しい排水管を入れると当然隙間が出来るので、下からAパッドを貼って、少な目にモルタルを入れる。翌日更に周囲の床と同じ高さまでモルタルを入れて床は完成だ。二回に分けるのは一回でやろうとするとモルタルの重みでAパッドが外れることがあるからである。
 たいていはこれで終わりだが、この現場ではさらに天井のAパッドを剥がして補修をする。最初に聞いた時は耳を疑った。なんでそんな手間かけるのよ?普通そのまんまだろ。
 排水管は壁の中にある。多分これを読んでいるあなたの家もそうなっている。給水も排水も管は隠してあるが、排水は特にそうだ。交換するためには壁を壊して配管を出さなければならない。この集合住宅は古いから壁はベニヤで、大工が穴を開けている。だが天井部分の開口部は何故かいつもやたら小さくて、配管の交換はどうにかなるだろうが管が入ってしまうと手が入る隙間があるか怪しい。なのでAパッドを貼る時はまだしも、剥がすとなると引っ張ったりするからベニヤやコンクリのはつり面に手を引っ掛けたりして手は傷だらけだ。
 最初の頃は部屋を汚さないように養生して、Aパッドを貼ってモルタル入れて、を一人でやっていて全く進まなかった。当たり前だ。
 人が増えて分業になって僕はモルタルだけになり、それでもまだ遅くって、一緒に組んでやっていた他の会社の職人から「まだ床入れてないんですか!」とか言われていた。僕が用事で休んだ翌日、その職人が言ってきた。「加藤さん大変だから、天井だけやってください。床はこっちでやります。」自分でやってみて、僕がなんで遅かったのか理解したらしい。
 けどV社の人間はみんな加藤は穴埋めでなんであんなに手間取っているのかって顔をしている。
    V社に新人が入った。まだ二十代初めで、前は内装屋だったとか。
    顔を合わせて二日目に聞かれた。「この会社長いんですか?」「いや、まだ二年だけど。」「長いですね。」二年を長いと言うあたりに彼の年齢と職歴がうかがえる。 「じゃあ配管出来るんですよね?」「出来ないよ。俺雑工だから。働くの好きじゃないしね。」 「今まで何して来たんですか! 仕事おぼえればその分給料上がるじゃないですか! 」これは随分と直球だ。これが若さか、とクワトロ・バジーナの台詞を言いそうになったよ。でも相手はカミ-ユ・ビダンって器じゃ無さそうだ。まあでも、当たり前の反応かもな。仕事で会った人間は相手を仕事で計る。そして若ければ若いほど、尺度の種類は少ない。
「仕事以外で何かこれが出来るとか、打ち込んでることとかあるんですか?」いや、それ会ったばっかりの人間に話さなくてもいいだろ?「いや、特にないね。」「結婚してるんですか?」身上調査でも始めたのかな。「してないよ。彼女もいないよ。」「彼女いなくて淋しくないんですか?」「淋しくても出来ないんだから仕方ないだろ。」自分が淋しいから彼女作るって、相手に対して失礼じゃないかとも思うんだがな。でも、結婚してない、彼女もいないって言うとみんなこう聞いてくる。
  一連の会話で値踏みされ、新人君の中で一番駄目なV社の人間と認定されたらしい。いつまで穴埋めしてるんだ、て顔をしてる。知ったことか。

 今まで何してたのか、は他人に言われるまでもない。まったく、なあ。