茨城不安定労働組合

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日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(512)こんなところに黒旗が その四

日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(512)こんなところに黒旗が その四
加藤匡通
十一月××日(月)
 集合住宅の配管更新現場は残業が続いている。僕は相変わらず廃水菅を通した穴に詰めたモルタルの補修をしている。 丸一日一人で、だ。
 工事をしている設備の元請けが倒産した。しかし工事全体を請け負ってうる元請けはなんともないから工事は継続している。だが、僕のいるV社の上の会社は逃げた。十時三時も取れない現場なんてやめればいいのに、と現場の人間はみんな思っているが、社長は労働者は休まず働かせるべきだと(多分)考えている。そうするとこんな素晴らしい現場はない。だからなんとしても残ろうとしている。実は他に現場はほとんどないらしい。
 現場には新しく業者が入ったりして職場環境が再編され、結果以前よりやや強化された労働が僕たちにのしかかっている。つまりかなり過重労働ってことだ。元請け一つなくなってるのを無理してやってるんだから当たり前だな。
 補修で使っている左官小手が駄目になってきた。先が柔らかくしなる小手だと天井の補修がとても楽だが、この小手は刃先の柔らかい部分と持ち手の硬い部分の接合部から解体しやすい。最終的には分離してしまう。
 もう剥がれ出していてそんなに長くは持たないだらうから、新しいのを買ってくれと社長に言うと、後で払うから自分で買って来いと返された。七時八時まで残業して朝は五時半に家を出る電車通勤なのにいつ買えと?休日に行けるホームセンターには安物の使いづらい小手しかないから言ってるんだけどな。車にモルタルの洗い水ぶっかけてやろうか?いかんいかん、これは社長が僕の徳を向上させようとして言っているんだ。そうに違いない、そうあって欲しいなあ、そうじゃなかったらどうしよう。
 昼しか休まず七時までぶっ通しとか、真夏でなくともきつい。しかもそれが何日も続いたりすると、体力だけでなくいろんなものが削られていく。現場は年内いっぱい続くらしい。もつかね?
   今日は久しぶりに早く終わったので、大喜びで映画館に向かった。ブラジルの高校生が政府の公立校削減案に学校や道路を占拠して対抗するドキュメンタリー、『これは君の闘争だ』を見に行ったのだ。大当りだった。とても同時代とは思えない活発な運動がそこにあった。この国は圧倒的に取り残されているのだろう。僕はそれを嘆いていられる年齢では最早ない。お前今まで何やってたんだ!と追究される側だ。
   画面にはアナーキズムを示す○の中にAと書かれた黒旗がひるがえりまくり、十代の若者たちが飛び回っている。彼らは事の本質が明確に階級問題であることを理解している。高揚して見ていたが、最後に思い切り水をぶっかけられた。自覚的に世代交代をしている姿が映っていた。道路を埋め尽くすデモ隊も、拡がっていく学校の占拠も政府案の撤回も、映画に映っているのは僕たちには出来ないことばかりだが何より衝撃だったのはここだ。僕(たち)は仲間を増やすことはもちろん、世代交代にも失敗し続けている。僕たちの運動など比較にならないのだと思い知らされた。