茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(351)『暗闇の悪魔』(題名と内容は関係ありません)

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(351)『暗闇の悪魔』(題名と内容は関係ありません)
加藤匡通
九月×日(木)
月曜からピットに入っている。去年完成した一期工事の床下に水が貯まっているので水を取ってくれと言うのが監督の要望である。どうもカが発生しているらしい。それはクレームが来るのも当たり前だ。
  今工事で入っているのは二期工事、ピットの入口も二期工事側だ。地下一階開口部からピットに下りて人通口を通って一期工事側に行こうとすると人通口の正面にパイプが二本走っていて通行の邪魔をする。こんな位置に設置した設備屋もそれにOK出した監督も馬鹿じゃないのか?配管を腹這いに乗り越えて人通口に入ると、これがまた通常の物より一回狭い。ここに分電盤から引っ張って来た電工ドラムと延長コードとライトと水中ポンプ一式とバケツなんぞを二人がかりで入れながら進んで行く。相方はまだ二十歳だが前回前々回とこの現場で同じ作業をやっているので勝手はわかっているから、僕は彼に従って動いている。人通口を五つくらい越えたところが一番奥、入口に近い方から水を切って来ているのでここの水を取れば後は各室の状態を再確認しながら撤退である。だがこの作業、灯りがなければ出来ないのにライトも延長コードも足りない。ライトは二個だけ、監督が用意した唯一の懐中電灯は接触が悪いのか電池を替えてもよく切れる。延長コードに至っては偶々現場を休んでいる左官屋の物を借りている。こんなに道具もないのに、おまけに他の仕事も振っておきながら今日中に終わらせろとは、やっぱりここの監督馬鹿じゃねぇの、と相方とピットの中で話している。作業をしている一番奥の部屋にはライトは届かない。隣の部屋の灯りがどうにか手元を照らしている。
  ピットの入口にポンプのスイッチと言うか電源がある。そろそろ入口のポンプも動かさないとまずかろうと相方が懐中電灯を持って入口に向かった。僕はスポンジに水を吸わせてはバケツに入れるだけだから懐中電灯がなくともどうにかなる。しばらくすると、ライトが消えた。電気を使い過ぎてブレーカーが落ちたのか、ポンプの電源を入れるための盛り替えかはわからない。真っ暗、完全に暗闇で何も見えない。これまでにもピットの中で真っ暗になったことはあるが、廻りに人がいて「また落ちちゃったよ』とか言いながら煙草を吸ったりしていた。一人は初めてである。しばらく待つが、明かりはつかない。不安になってくる。もしかしてライトが消えていること自体に気付いてないのか?だとしたらいつまで待っても電気はつかない。そんな妄想が始まり出したら明かりがついた。安心してスポンジを手に取る。また消える。うわ。手を止めて待つ。妄想が再開される。携帯を取り出せば明かりはなんとかなる。しかしその明かりだけで入口まで戻るのはしんどいな。明かりがつく。すぐ消える、すぐつく。おいおい遊んでんのかよ。また消える。叫び出したくなった。目の前に化け物がいるとも思わないのに、暗闇がこんなに恐ろしいとは。時間で言えば長くても二分なんだが。
ほどなくして相方が帰って来た。ポンプを動かすと電源が落ちるので困ったと言う。それでか。。いや、僕は炭鉱には入れないな。