茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(249)現場始めて君二人目

加藤匡通
三月××日(水)
  かれこれ四カ月通っているマンション耐震改修工事では毎日、ベランダのサッシにスタイロをはめ込み続けている。これはベランダ内での作業が終わるまで続く。アンカー屋が穴を空け、鉄筋屋が鉄筋を組み、圧接屋が縦の柱に入る鉄筋を溶接し、また鉄筋屋が鉄筋を組み、型枠大工が型枠を組む。このすべての工程でガラス窓に、様々なバリエーションはあるものの、スタイロ養生はなされる。圧接屋の時は耐火養生なので薄ベニの着いたスタイロにさらに鉄板を貼った物が使われているが、当然にもやたらと重い。たまには別の仕事もしたくなろうと言うものだ。ま、ここに書いてないだけでスタイロ養生より様々な雑のほうが圧倒的に多いのだけど。
   プランターの土を取る方のマンション改修現場にまた呼ばれた。何をするかわかっているので今度こそ、と母が使っている園芸用のミニスコップを持って来た。今日の相方も現場始めて君、安全帯の付け方も知らないどころか一週間やったら他の仕事に移ると言う。それじゃあ何も覚えない、つーか覚えるつもりないよなあ。で彼、現場で会う人会う人みんなに名乗っている。「○○です、よろしくお願いします!」一々名前言わなくていいから。元気とか礼儀正しいとは違う気が。また大変なのかと頭を抱えながら監督を待っていたら会うなり「今日はこの前の土嚢全部下ろすから」。ええ、掘らないのお!「うん、今日はそこまで行かないと思うよ。」がちょーん!またやられた。
   このマンションはある程度の高さから階段状に先が細くなっていく。従ってベテランの大きさもいろいろ、プランターも三個から十個までばらばらだ。それを下ろすと言われても、ベランダは普通に考えてわかる通り通路には面していない。住人は部屋内を通ればいいが、僕たち作業員は足場の中を通らなければ物を出し入れすることなど出来ない。足場を通して下の階のベランダに下ろし、そこからさらに足場を通って同じ階の既存の通路に土嚢を下ろすことになる。
    足場の幅は五十センチほど。これが基本のアンチと呼ばれる足場の床に使う仮説材で、現場によってこれを二枚並べたり、半分の幅のハーフアンチと並べたりする。当たり前だが幅は広い方が作業しやすい。足場の上の幅も当然アンチ一枚なら五十センチに多少乗っかって六十センチと言ったところか。ちなみに僕が職長として通っている方のマンション改修現場はアンチ一枚とハーフアンチ一枚分の幅で足場は組まれている。今日の現場はアンチ一枚分しかない。他人とすれ違う時はどちらかが止まっていないとすれ違えない。さらに足場は天井が低い。ヘルメットをかぶれば百七十五くらいになる僕が背筋を伸ばすと頭がぶつかるので、歩く時はいつも頭を下げて背を丸めている。物を持って歩くには好ましくない環境である。そこを、土を詰めた土嚢を持って歩く訳だ。これ、やってると嫌になるぜ?一度に二つは持って持てなくはないが、スピードがかなり落ちるので、無理せずちんたら一つずつ運ぶ。
   一番やりづらかったのが、空になったプランターを足場から下のベランダに下ろすことだった。上のベランダから一段下の足場上にプランターを下ろし、ある程度貯めてから下に渡すのだが、ここの幅はアンチの半分しかない。動きずらいしプランターを貯める場所もあまりない。それでも三人いれば訳のない作業、上のベランダに一人、足場上に一人、下のベランダに一人で受け渡しをすれば、何も狭い足場の上に貯める必要はない。しかし今日は二人である。おまけに足場から下に下ろす際には足場を覆っているネットをまくり上げ、足場板とネットの狭い隙間からプランターを出さなければならず、四苦八苦した。三十センチない足場の上にプランターまで並べ、とてもじゃないが危なくて仕方ないので足場上が僕、現場始めて君がベランダである。プランターをやっと隙間から出したら、現場始めて君がプランターを引っ張るタイミングがわからなくて思いきり引っ張ってしまい、僕は短管とプランターの間に指の丁度関節部分を挟んだ。現場始めて君はごめんなさいとも大丈夫ですかとも言わない。痛みとともに説教したくなるのを必死にこらえた。あいつ、自分がヘマしたってわかってないぞ。そこまで説明していたら怒鳴りつけそうだ。自分がやられて嫌だったことを他人にしてはいけない。…でもこれ、怒鳴った方が本人のためだったのか?うーん。
   そんな思いまでしていながらも、五時までかかってやっと二部屋、残り部屋数しかこなせなかった。明日は雨予報なのでこの現場の作業で出来るのは壁や床の水洗いのみとなる。二人でする作業ではないと監督も(と言うよりその上役が)わかったので、金土日と五人ずつ入れて土嚢下ろしを片付けようと派遣会社に監督から電話したら、手がないと断られたと言う。確かに人手はないだろうな。常時人が入ってるならまだしも、ぽつんぽつんでは少々無理してでも人を手配しようとも思わないか。監督に聞いたら別の派遣会社に頼んでみるとのことだった。ああ、これはもうそっちの会社に仕事流れるよなあ。
   明日はまたいつものマンション改修現場に戻りだ。こりゃコン打ちが一段落するまで続きそうだ。