茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(250)大逆事件から百三年

加藤匡通
四月×日(火)
  最近休み時間も眠くて仕方なく、あまり本が読めなくなっている。当然、行き帰りの電車でも座れば寝てしまう。現場で本を読まないとはつまり本を読む時間がまるでないと言うことだ。電車で座らなきゃいいって?無理言うなよ。この日記を書き始めた頃は昼休みに寝なくても平気だったがもう無理だ。ビラもレジュメも休み時間に書くなんてもう出来ない。
  詰所で本を読んでいると「何読んでるんですか」と聞かれるのはよくあることだ。だいたい現場で本を読んでいる者は極少数、五十人程度の詰所に一人か二人いるくらい、活字を読んでいる者はたいていスポーツ紙で一般紙を読んでいる者はまずいない。読んでる本もまあ小説で、硬い本を読んでいるやつはほぼ見ない。新書を読んでいるのを年に一、二度見掛けるか、である。日雇派遣として現場に通うようになって十五年を越えるが、僕以外の人間で岩波文庫を読んでいるのを見たのは一度だけで、その時はあまりの珍しさにこちらから声を掛けた。
  いつものマンション耐震改修現場で『日本の名著 幸徳秋水』を読んでいて監督が「今日は何読んでるの」と寄って来た。この現場に監督は二十代後半が一人と四十代前半が一人、二人とも理系である。二十代の方は表紙を見せてもそもそもタイトルが読めなかったらしい。四十代の方は近寄って来て表紙を見せたら一歩退いた。なんとなく表情も固くなってる。「幸徳秋水大逆事件の…」おう、ある意味期待通りの反応だ。「中江兆民なんかと一緒の…共産党だっけ?」「違います、もっと前です。」「加藤さん、もしかして共産党なの?」いや、それは期待してないぞ。「そんな中途半端なところと一緒にしないでください。」幸徳秋水中江兆民をまとめて共産党とは。監督が単に知らないだけなのか、それともスーパーゼネコンは社員に人権思想は企業活動と両立しない共産主義だとでも教育してるのかな?
  それにしても凄いぜ幸徳、あんた殺されて百年越えてんのにまだ危険人物だよ!