茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(257)「お父さん、いいヘルメットですね。」

加藤匡通
五月××日(火)
  クリーニングは一通り終わり、足場の大払しは昨日から始まっている。足場を一段ごとにラプターで吊り上げ、地上で解体している。鳶は十人を越えている。足場を一段だけとは言え、丸ごと吊り上げるのは何度見ても凄い光景だ。そんなもん吊っていいのか!って気になる。
   それを横目に(厳密に言えば場所が離れているので横目にすら入っていないんだが)僕は詰所でこれまでR社で使っていた材料や備品の整理をしている。いつものように新品の、まだ使ってない物が大量に捨てられる、いや、捨てている。ガムテープ類は多少僕も持って帰った。雪かきスコップは三本持ち帰っている。けどシンナーなんか使い道ないからなあ。僕が来てからだけでも半年分、詰所の整理だけで半日以上かかった。監督はこの機会にと、不要材の廃棄も言って来ているので今日は本当に一日片付けに終始だ。これまた新品をぶん投げ続ける。ディスカウントショップに伝手があれば横流しするのにな。二人で丸一日って結構な仕事量だぜ?
   半年続いたマンション耐震改修現場も今日で終わり、後は来月中旬、工事が完全に終了する時に事務所の片付けで呼ばれるだけの予定だ。足場がばれたら敷いていた砕石を剥がしてアスファルト舗装をする。その頃にはもう養生もクリーニングもほぼ要らないのだ。それにしても体力的には極めて楽な現場だったな。しばらく穴掘りとかきついんじゃないか?
  長く同じ現場に居着くと、日替わりで現場を移動するのが億劫にもなってくる。日雇いが渡りを厭うとは本末転倒だ。明日はどこへ行くのやら。
   とか思っていたら帰り道で大打撃を受ける。
   さらにつくばエクスプレスの車中で打撃を受けた。吊革につかまりながら本を読んでいた。すぐ近くではぐでんぐでんに酔っ払ったサラリーマン二人組が大声で会話している。うるさいけどまだ害はなさそうだ。しばらくして二人のうち片方が下りた。同時に客もかなり下りて、車中に空間が出来、件の残ったサラリーマンと僕の間に誰もいなくなった。三十前後のスーツ姿が見事に崩れている。あれ、こっち見てるぞ、面倒なこと言い出すのかな。僕は作業服に下駄履きのスキンヘッド、リュックには傷だらけの白いヘルメットもぶら下げている。普通はあんまり声を掛けたくない外見だが。「お父さん、いいヘルメットですね。」無視した。飲むのやめたのに知らない酔っ払いの相手なんか出来るか!お前の父親なんかじゃねえぞ。つーか、ヘルメットと縁のない野郎にしか見えないけど、あんたにヘルメットの良し悪しわかんのかよ?