茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(256)「今、藤代にいます。」

加藤匡通
五月×日(木)
  先週は二日続けて人が欠けた。四人のところ三人が二日続いた。十人もいるなら分かるが、なぜ四人で二日続けて足りなくなるのだ?
  連休明けから五人に増員、まず鳶が耐震構造体を支えるための支保工をバラす際サッシ、特にガラスを傷付けないためにスタイロベニヤで養生をする。バラしが終わったら養生を外してベランダをサッシまで含めた最終クリーニングをし、その後に取り付けられた手摺をクリーニングしている。手摺が付いたら足場をバラしてしまうので、ベランダには原則入れなくなる。だから今やっているのが最終のクリーニングとなる。床を掃き、モルタルのこぼれをケレン、サッシ網戸の埃や汚れを落とし、サッシも拭く。床は防水塗装がしてあるのでケレンは気をつけないと床を傷つけてしまう。サッシは、R社の番頭さんは既設でそんなにひどい汚れでもないので乾拭きだけでいいと言っていたが、派遣会社が送ってきたのはガラスクリーニング専門の人、道具一式持って来てきちんとクリーニングをしている。もちろん僕にはあんなきちんとしたクリーニングは出来ない。手摺はピカピカのステンレス、薄いシンナーで拭いてそれでも落ちないムラのような汚れは「激落ち君」と言う研磨剤の入ったスポンジかスコッチでこする。特にスコッチは思い切りこすれば傷になってしまうので気を付けなければならない。これか一通り終わってクリーニング終了となる。支保工バラしは連休前に八階まで終わっているから残りは二階分だけ、ベランダのクリーニングも二階分だけ、だったのが昨日の朝なので今日はそれぞれ一階分進行している。手摺も七階まで付いていて、クリーニングも済んでいる。来週火曜からの足場の解体に向けて、後は足場の掃き掃除をすればいい。
  今朝七時過ぎに電話があった。この時間の電話の意味は一つしかない。ガラスクリーニング専門の人からだった。「体調崩したんで休みます。」それは仕方ないよな。昨日体調に変わりはなさそうだった気もするが、まあいいや。詰所に着いたら七時四十分で三人。八時になってももう一人が来ない。電話にも出ない。派遣会社に電話したが、会社も連絡が取れないと言う。何でいっぺんに二人休むよ?
   五人なら明日には足場清掃に入れるだろうが三人となると自信はない。監督に途中入場になるが人手を呼んでいいか聞いてみた。うるさい現場、と言うか大概のスーパーゼネコンは遅刻も途中入場も認めないので、欠勤が出たからって穴埋めの途中入場を掛け合う気にはならないが、この現場は甘いのだ。OKだったので会社に連絡すると、丁度現場がなくなって二人人手が浮いていると言う。じゃあ頼むよ。
   二人が来たのは十時半を大幅に過ぎていた。十時には最寄駅から電話があったのに道に迷ったらしい。休憩が終わっても彼らを待って動けず、新規入場者教育を済ませて現場に連れて行き、簡単に作業内容を説明したらもう打ち合わせの時間になっている。一人は本格的なクリーニングの経験もなく、ベテランが手取り足取り教える羽目になった。どうにか予定の作業はこなせたものの、うーん二人に教えてる時間とか考えたら三人でも変わらなかったんじゃないか、と言うのが朝からいた三人の結論だった。
   二月の一時期、二人で毎日養生をしていた。耐震構造物の鉄骨を溶接するのにベランダのサッシガラスに火花が飛んだら大変と、スタイロベニヤに亜鉛板を付けた物を一月始めの僕がいない時に自作していて、それでサッシ養生をしていたのだ。普段は軽いスタイロベニヤを使っているものだから尚更重く、しかもスタイロベニヤの柔軟さもなくて大変だった。足場からベランダへの出し入れが面倒で面倒で。おまけに使っているうちに亜鉛板はふちが曲がっていろんなところに引っかかっるようになる。相方は二十代始めの、僕同様ぽつんぽつんと休む人で代わりに来る人間はよく入れ替わったが、何より僕自身がそうだったのでとやかく言うつもりはない。
   で、ある時、代わりにハタチの女の子が来ると言われた。もちろん大喜びである。その派遣会社に女性も現場作業員で登録していると聞いてはいたが、現場で一緒になったことはなかった。そんな年代の女性と会話なんてする機会はほぼない。相方は翌日女性が来ると聞いて「加藤さん、チャンスですよ。」とか言ってる。いやいや、そんな邪なこと考えてないから。そもそも二十歳に女の子と共通の話題ないし。しかし、朝、待ち合わせ時間まで間があるのでマクドナルドにいると会社から電話が入った。「手違いがあって遅れるそうです。」何だよ手違いって。八時半、九時、と時間が経っても何の連絡もない。重い亜鉛板付スタイロはひいひい言いながら一人で運んで設置した(のちにあまりの手間に作業後いちいち運び出さずベランダに置きっ放しでよくなった。もちろんロープ等で固定はする。)。出す時は見かねた他職が手伝ってくれた。十時の一服も終わり、亜鉛板付スタイロを動かしている最中に電話が鳴った。「今、間違えて藤代ってとこに来ちゃったんですけど。」最初は二つ三つ先の駅まで寝過ごしたらしい。で、修正しようとして失敗したと言いたいようだ。いや、でも藤代って路線がそもそも違うし、地下鉄から直行は出来ないぜ?わざわざ取手で乗り換えて行ったのかよ?何が起きているのか理解出来ん。「あの、今から向かった方がいいですか?」ああ、今から改めてここに向かったら昼着だな。「来なくていいよ。」怒鳴りつけなかっただけありがたいと思ってくれよな。これは、女性とは徹底して縁がないと言う何かの教えなのか?