茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(289)三百メートル掃き掃除

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(289)三百メートル掃き掃除
加藤匡通
十一月××日(月)
今日も休日だが出ている。
今日の現場は東京の海沿い、目の前は東京湾。相手の会社は初めて聞く名前だったが、付き合いはずっとあったらしい。待ち合わせは最寄駅の改札口になっていたが向こうは車で来るそうだ。で、待ち合わせ時間前に電話をしてもつながらず、時間を少し過ぎてから電話がかかって来た。道路の方へ出て相手を探すがわからず、何度か電話をかける羽目に陥った。朝礼は八時からだろうからあまり時間もない。どんな現場なのかわからないが、朝礼に間に合わなければ最悪職人も僕も現場に入れないこともあり得る。それは僕一人の問題ではなくなるのでまずい。車が見つけられたので走った。背中のリュックの肩紐が切れて肩紐にぶら下げていたヘルメットが転げ落ちた。荷物が重いから紐の下の付け根が千切れかけ、いつまで保つかと思っていたが、このタイミングが。うわ、俺この仕事今週いっぱいなのに!
金曜の面接に受かってしまい、十二月から県内で働くことになった。もちろん現業、肉体労働である。車で通勤なのでリュック背負って歩くことはないはずだ。だから週末まで保ってくれればと思ってたのに。今週の日雇派遣の収入の次は新しい仕事の給料日、十二月末まで収入はない。だからリュック」を新しく買う余裕などどこにもないのだ。ああ、それなのにそれなのに。
無事合流した派遣先の相手に聞いたら相手は現場の元請けの監督で、今日現場には僕らだけだと言う。走らなくともよかったのか、と力が抜けた。
作業は一日掃き掃除だった。海沿いにある倉庫の外壁補修をしている会社で、倉庫の周囲を覆った足場を撤去したのでその後の掃除を頼まれた。終わり仕舞いでいいと言う。足場を撤去すると後には番線屑や養生材の切れ端や塗装屑やら砂やらいろんな物が落ちている。倉庫は一辺百メートルの正方形に近い。一辺だけ足場が残っているので計三百メートルを幅三、四メートルで掃き掃除。これは結構きつい。午前中で三分の一しか終わらず監督に確認したら、一日で終わらせてくれ、その程度の掃き方でいいと言う。そうは言ってもゴミだらけで掃きましたと言う訳にもいかない。昼を十五分短くし三時も休まず掃き続け四時に掃き終えた。ふう。終わり仕舞いだと言われたし、暗くなって見えない中で作業したくはなかったのだ。時間をずらしたことを考えると定時終了と変わりはない。
監督に駅へと車で送ってもらう時に都心までバスが出ていると教えられた。この路線は電車代がかかるのでバスの方が安上がりだ。乗ってみた。バスはガラガラで座れた。前の座席は一段低くておじさんが座っている。走り出してからしばらくしてふと前を見たら、おじさんが携帯電話でエロ画像を物色しているのがよく見える。目が離せなくなってしまい、おじさんが下りるまで見続けてしまった。車窓にはかつて入った現場の近所が次々と現れる。古ければ前世紀末だが最近だとせいぜい三年前に見た景色なのに見事に建て替わり、平らだった町並みはそびえ建つタワーマンションと入れ替わっていた。海沿いは本当に再開発されまくっているんだと唖然とした。押井守の『機動警察パトレイバー』の最初の劇場版を見た時、こうした風景が入れ替わっていく意味を問うていたことにまるで気付かなかった。あれから二十五年経つ。