加藤匡通
三月×日（月）
建退共の加入通知が送られてきた。驚いた。建設退職金共済制度、略して建退共は読んだ通りの制度で、これのおかげで中小零細で働く建設労働者にも退職金が支払われている。なんだ、Ａ社しっかりしたところだったんだ。もちろん、これまで入ったことなどない。加入する機会などないと思っていた。外構屋のＹ社では形式上は一人親方だったので雇用保険も退職金もなかったし（労災保険だけは掛けないと元請けが現場に入れないので掛けてた）、日雇派遣も税金を引かれはするものの社会保険の類は掛けられたことはない。
ついでに言うとサラリーマン時代の退職金はこれの中小企業版の制度によって支払われた。百万ほどだったが三カ月だかでなくなった。多分ほとんど酒に使ったのだろう。ご利用は計画的に、てなもんである。馬鹿な使い方をしたと思うが、今なら当時より賢い使い方が出来るのかは疑問である。前から欲しかった高い本をバンバン買いかねない。
通知を見た母が「お金入って来るの？」と聞いてきた。月二十一日以上勤務で丸二年掛け続けてようやく退職金が発生する制度なので僕にはまだ資格が発生していない。加入して五日で退職だからな。と言う訳でお金は出ないのですよ、お母様。ちなみにこの制度は建設業から退職する際に払われるらしいので、他の会社に移っても掛け金が払われていれば有効、つまり僕にもまだ望みはあるんだが、そんな会社に雇われるとも思えない。派遣会社、掛けてくんねぇかな。
