茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(311)『中高年ブラック派遣』

加藤匡通
五月×日(日)
 毒舌で知られるエロまんが編集者塩山芳明のブログで高評価だったので『中高年ブラック派遣 人材派遣業界の闇』を買って読んだ。この手の体験記的な本は沢山出ていて玉石混淆なので新刊は見逃すことにしている。何も知らないし関心もないライターがまとめた新書とかひどいし院生上がりのルポもあまりうまくないものにしか当たっていないので、このジャンルで博打をする気にならないのだ。この本で扱って、と言うか著者が働いたのは日雇派遣でも工場や建設現場ではなく倉庫やイベントなので僕の知らない世界である。これが派遣会社も派遣先の企業も派遣労働者に対する扱いがひどい。派遣会社は集めた労働者を説明会や研修会の段階から怒鳴り散らし、派遣先の企業はストレス発散とばかりに労働者に理不尽に当たり散らす。読んでいる限りそれは管理ではなくただのいじめだ。建設現場でこんなことをしたら翌日その現場に派遣会社から行く人間がいなくなる。ぼくが知る範囲で派遣に対する扱いのひどい業種は引っ越し屋で、彼らはその日初めて引っ越し作業をする僕たちに引っ越し屋本体と同じとは言わないまでも練度の高い作業を要求し、出来ないと怒鳴りつけた。作業着への着替えもその辺の路上である。しかしそんなもの、この本での理不尽さの前ではそれなりの理由ある可愛いものに見えてしまう。フリーター全般労組の最近の主張に「労働のハラスメント化」があるが、そのまんまだよ。生産やサービスへの対価ではなくプライドをズタズタにされるいじめへの対価として賃金が支払われる。非人間的な労働どころか労働の目的が労働者の人間性の破壊になっている。…そんな社会に未来なんかねぇぞ?
  著者が対策としてあげているのは、派遣Gメンによる強力な行政指導と派遣労働者への積極的な情報提供と指導の二つである。どちらも行政への対応を求めている点では同じだが、今すぐ役に立つ手段ではない。派遣労働者への情報提供と指導と言ったって、労働者が情報を把握して判断出来ても派遣会社や派遣先の会社との問題を個人で解決出来るのかと言えば、圧倒的に泣き寝入りだろう。派遣先とその場でやりあって、むしろ周囲の派遣労働者から「おかしな人」として浮いてしまったと著者自身が書いている。そんな状態で労働者個人がどうやって会社と交渉しろと言うんだ?必要なのはまさに労働組合ではないかと思うのだが、著者には思いもよらぬことらしく、労組なんて単語は出て来ないのだった。