茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(349)掃き掃除をしていてヘレニズムを見損ねる

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(349)掃き掃除をしていてヘレニズムを見損ねる
加藤匡通
八月××日(木)
 この一週間、ずっと外の仕事をしている。既存の建物の改修工事で、低層棟の屋上に敷き詰めてある砂利の撤去である。半世紀近い建物なので防水工事をやり直すためにその上にある砂利を取りたいのだ。ミニユンボでも使えば早かろうに、この暑い中を人力でやっている。実にご苦労さんである。ったく、誰かねぎらってくれよ。直射日光とコンクリからの照り返しで汗だくになるかと思えば土砂降りだしよ。砂利の上に繁ってしまった草を取り苔を除き、スコップですくい一輪車に入れる。で、一輪車の中身をモッコに空け、モッコがいっぱいになったらクレーンで下ろし十トンダンプに積む。派遣会社から八人、元請けから六人と大所帯だ。モッコをクレーンで吊り上げるために玉掛けの資格を持っている一人が屋上からクレーンのオペに指示を出し、ダンプの上でモッコを受けとるこちらも玉掛け資格保持者の一人を除いたほぼ全員がスコップを握って砂利を集めている。玉掛けはどちらも派遣会社の人間だ。本体の半分は下請けの植木屋と聞いた。そうすると本体は何屋なんだろうと思っていたら、はつり屋だと言われた。はつり屋が砂利かきまでするのか!はつり屋は普段はつったガラの片付けは人任せで、大抵派遣の人間が片付けてるのだ。はつり屋の職人たちも現場で詳細を聞いて驚いたらしい。
 スコップ作業なので大喜びと言いたいところだが、僕は腰が痛くてスコップを振り回せない。ええい!だから、ではないのだが気が付いたら玉掛けの実働、クレーンのフックにモッコを掛ける役をしていた。間違えるとモッコに指を持っていかれたり、落ちて来た砂利やモッコの下敷きになる役である。やること自体は簡単なのに誰も手を出さない。派遣会社の日雇派遣はともかく、これ植木屋とかはつり屋なら出来そうなもんだが。三十過ぎくらいの全盛期(ええ、盛りは過ぎたと自覚しておりますとも!)には玉掛けの合図も見よう見まねで覚えていてクレーンに合図したりしてたが、もう無理。そもそも資格ないからスーパーゼネコンじゃやらせないし。常時スコップを握っていたのは一昨日の朝までで、もう砂利そのものが少なくなってしまいみんな苔を取り除きながら砂利をかき集めて山を作っている。
  久し振りの外仕事ですっかり日焼けをしている。日雇派遣で外の仕事はあまり廻ってこないので焼けたのも久し振りである。昔はもっと外仕事廻ってきたのになあ。夏の太陽の下なので身体はしんどいが、気分は悪くない。・・・気分が悪くなったら熱中症なのですぐに対処すること。
  この作業、今日が最終日だった。今日はもう下ろすべき砂利もなく、掃除してゴミや道具をクレーンで下ろして終わり、のはずなんだがいつまでも何回も掃き掃除をさせられて結局三時前にやっと解放された。何十年も経ったコンクリの上なんていくら掃き掃除したってきりがないよ。掃けば掃くだけ埃は出てくる。無駄なことさせやがって。
  早く終わったら上野でやってる『古代ギリシャ 時空を超えた旅』に行こうと思っていた。大学を卒業したら『プラトン全集』をゆっくり読もうと思っていたが、何故か全くそんな時間の作れぬままにもう二十五年も過ぎている。ギリシャの地を踏むなんてこの分だと死ぬまでないだろう。見たいと思っていたのに、六月からの開催が気が付いたら八月も終わり、これはまずい見逃してしまう。それで今日の仕事が終わったら行こうと、いらいらしながら待ってたのだ。会場は五時まで、けど他に行く余裕のある日もなさそうだ。とにかく行ってみるべえと駆け込み、線文字abの実物を見てまるで読めないのに感動し、紀元前二千三百年以上前の彫刻の作者が特定されてることに驚嘆し、鉄串にしか見えないオボロス貨に震え、投票具だの重装歩兵の兜だの等辺追放の陶片だのに一々感動していたら半分強しか見ていないのに閉館時間が来てしまった。やっと古典古代に入ったばかり、ヘレニズムにたどり着いてない。開館時間を延長している日もあるそうなのでまた来よう。だから掃き掃除を何度もしなくていいと言ったのに。