茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(359)誕生日に『ランド・オブ・ザ・デッド』を思い出す

加藤匡通
十二月××日(水)
今日で今年の仕事は終わりだ。多分ほとんどの同僚たちが今日で終わりなんじゃないかと思う。たいていの現場はもう終わっていて、明日以降やっている現場は例外となる。僕が日雇派遣になってから、どんなにあっても二十九日までしか仕事はなく、年明けは五日からしか出れたことがない。
今日は山手線沿線のタワーマンションに来ている。完成後の一年点検だと言うが、それにしては随分大がかり、ついでかどうかは知らないが改修工事もしているようだ。僕たちは養生・クリーニング屋のT社に派遣されているが、年末で現場が薄いからと十人突っ込まれた。派遣会社としては何とか今日までは仕事を確保しようと努力したと言うことだろうが、T社は困ったろう。朝の待ち合わせ場所には職長として常時現場を持っている人も来ていて、やはり年末で現場が終わってしまい廻されて来たと聞いた。
作業は二人一組での廊下に面している電気室の清掃だった。配管だの床だのを掃き掃除、一年でそんなに汚れるはずもなく、大して手間もかからずに結構なペースで進む。相方は今の派遣会社に同じ日に入って同じ現場で働き出した同じ四十八才。「何だよまた白髪増えたじゃないかよ」「お前こそ髪ないじゃないか」「俺は剃ってるんだよ!」とか馬鹿を言い合いながらの作業で気分的にもラクだった。
今日入っている作業員は百名近い。それなのに使えるトイレは一つだけ、しかも警備員に連れて行ってもらわなければならない。マンションの監視室だか制御室だかの中にあるのだ。で、作業員には外のコンビニやスーパーのトイレ利用が勧められている。こんなに大勢の作業員が一度に入ることはそもそも想定されていないのは確かだろうが、しかし他にトイレがないとも思えない。他にもこのタワーマンションを維持管理の作業をしている人はたくさんいるからだ。彼等は住人とは別の通路を使い、エレベーターも別れている。そんなんじゃ外部から臨時で来てる作業員に使わせるトイレなんかある訳ないよな。施設の維持管理は見えないようにして住人たちは優雅な生活を楽しむと言うのがこの手のタワーマンションのコンセプトとか言う奴なのだろう。働く者ではなく消費する者としてのみ振る舞いたいと言うことなのか、肉体労働への蔑視なのかは知らないが、不愉快だ。
タワーマンションで以前と変わらぬ暮らしをしている金持ちが結局はゾンビに呑み込まれていく『ランド・オブ・ザ・デッド』と言う映画がある。階級社会の露骨な比喩、と言うかほとんどそのまんまだが、現実にはタワーマンションに雪崩れ込みになど行けない。最近はタワーマンションに入る度にあの映画を思い出しては歯噛みしている。ああ、へし折ってやりたい。
今日で四十八になった。干支が四回転、びっくりだよ。しかし誕生日をキャリー・フィッシャーの訃報で迎え、タワーマンションで一日過ごすとは。まあろくなことのなかった年にの終わりにはふさわしいか。