茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

日雇い派遣日記(30)

                加藤匡通

五月××日(水)  只今所持金二百五十円

 おととい雨で現場が流れ、いい機会だからと医者に行ったら五千円かかり医者に行ったにもかかわらずかえって頭がくらくら。他にもいろんな理由で出費があって、昨日の朝、僕の所持金は二千五百円だった。
 移動する給料日は今のところ水曜日なので一日半をそれでもたせなければならない。回数券は既に使い切り、次の十一枚を使い切れる程現場が続くとも思えないので新たに買ってはいない。現場まで片道七百五十円で水曜の帰りには給料が渡されるから往復一回と片道分があればいい。でもぎりぎりだ。
 日雇派遣だった頃は回数券が使えなかった。結果的に同じ現場に三カ月、あるいは半年と通うことにはあっても、回数券を買って使い切るまでの五日六日、その現場に通えるかどうか僕たちにはさっぱり分からなかったからだ。定期券なんてましてや論外。現場で手が余れば日雇派遣は真っ先に切られる。現場の職人に指名されて同じ現場に通っていても派遣先の会社の事情や派遣会社の側の事情で違う現場に行くことは充分ありうる。というかよくあった。「え、明日ここじゃないの」「いやー、他にも是非加藤さんに行って欲しい現場が」何が是非だよ、と実際口に出してもいたがこんな会話を会社と何度繰り返したことか。一度現場を変わったら元の現場に戻れないことも珍しくない。そう考えると回数券なんか買えやしない。
 どうにか火曜を無事に過ごし、千円札一枚で今日をむかえた。僕の全財産が千円である。昼は弁当水筒持参なので(いくつになっても親とはありがたいものだなあ。ああ、僕は寄生虫だよ。パラサイト・シングルなんてカタカナで誤魔化さないよ。)食費はかからない。とはいえ朝切符を買うと残金二百五十円。これで給料が出なけりゃアウト、何も出来なくなる。もちろんこんな綱渡り、精神衛生によくない。経済状態の不安定は精神状態の不安定ももたらすだろう。つーかこういうプレッシャーに僕はかなり弱い。日払い仕事に居ついてしまってから財布に中はいつもこうだ。学生時代、自宅のあった東京世田谷の三軒茶屋から大学のあった埼玉の熊谷まで定期券一枚だけで一円も持たずに平気で通っていたが、今はもう耐えられそうにない。あの頃の方が貨幣経済に組み込まれていなかったのか?
 さてどうにか給料日にたどりついたので、これでまた一週間をもたせよう。ええと確かそろそろ携帯電話代と水道料金を払わにゃいけなかったような気が。