賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(常雇?)(415)「こんなひどい扱いは初めてだ。」
加藤匡通
九月××日(月)
今日は休日で通っている設備の現場は休み。だが金もないので現場に出ている。小ぶりなマンションの新築現場で、まだ一階の床のコンク打ちが終わったばかり。地下はない。派遣会社は一次で入っていて、普段は若手の現場社員が来ている。今日はその代打だ。
朝、地下鉄の駅を出て駅前にある周辺地図の看板を見ると、実は秋葉原から歩いて来れる場所だと気付いた。現場まで駅から二、三分と聞いていたので事前に地図を確認していなかったのだ。なんだ、北千住で乗り換えるより早いし安かったじゃないか。行きは迷うと困るので最寄駅まで出たろうが帰りは秋葉原を使ったのに。回数券を買ってしまったからもう無理だ。休日の回数券は正規料金より百四十円安い。
現場に着いて警備員に詰所はどこかと尋ねた。現場は仮囲いの中、敷地いっぱいに建物の基礎と言うか一階床のコンクリが広がっている。その周囲に、仮囲いに沿って足場板の通路がぐるっと取り囲んでいる。幅は二メートルもない。警備員が指す方を見ると、通路の一角に申し訳程度の屋根がかかっていて、仮囲いに棚が付けられ、材料に混じってリュックが置いてある。え、あれなの?よく見たら、棚の前にはパイプ椅子が数脚並んでいた。現場用の灰皿の缶もある。あれだ。これはまた随分な扱いだな。椅子があるだけましってか。作業員だってほとんど座れないじゃないか。雨降ったら濡れるじゃん。
朝一でユンボが入って来た。掘削?掘れるとこなんてどこにもないだろうに、と考えて気付いた。通路か!監督が通路の簡単な片付けを僕に指示する。僕が片付けると鳶が足場材で出来た通路を解体し始めた。詰所も?もちろん詰所もだった。僕のリュックはコンクリの上に動かされた。
休憩時間はみんなコンクリの上に座り込んでいる。まあそうなるわなあ。コンクリの上でゆっくり本を読む気にもなれず、昼も含めて近くのコンビニのイートインで過ごした。流石にコンビニで眠る訳にもいかず、眠気をこらえて本を読んでた。車で来てる者は車で休んでいるのだろう。昼休みにコンクリの上にいたのは二、三人だった。
朝一の通路片付けの後はコンクリートの地中壁になる面への防水塗装で、午後は片付け、こうなるとまるっきり土工である。特に午後は他の業者からも「土工さん」と呼ばれている。派遣会社の、自身を養生・クリーニング工と任じている同僚たちなら怒りだすところだ。もちろん自身を雑工と任じている僕は気にしない。
今通っている設備現場ではコン打ち相番があると何度か書いてるが、一時期毎回同じ人が来ていた。派遣会社の設備部門の人で、元は配管工である。
空調設備の詰所は初め設備事務所だった。設備の作業員は僕たちの派遣会社だけだったからだ。監督とクーラーの効いたプレハブを実にゆったりと使っていたが、設備の作業員が増えるに連れて狭くなり、七月終わりには事務所から追い出された。新しい詰所は現場の中、一階の一角となった。一角って言うか、だだっ広いスペースのど真ん中に折り畳み式の机と椅子がいくつかあるだけだ。何せコン打ちも終わってなけりゃ、内装は始まってすらいない。朝机を拭いても十時の休憩の時には机の上がジャリジャリする。スーパーゼネコンなら詰所をきちんと区画して、らしくするだろうが街場の現場じゃこんなもんだろ。僕はそう思っていたが、件の相番は違った。詰所が変わって最初のコン打ち相番の日、朝新しい詰所に連れて行くと叫んだ。「いくら何でもあんまりだ。こんなひどい扱い初めてだ!」あんたこれまでそんなに恵まれてたのか?彼に今日の詰所を見せてやりたいよ。
ちなみに、厚生労働省の指導により「詰所」と言う言葉は今後「休憩所」に変えられるんだそうであります。