茨城不安定労働組合

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日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(515)いろいろ敗北

日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(515)いろいろ敗北
加藤匡通
十二月××日(土)
 四か月続いた昼しか休めない現場はとうとう終わった。本当は今日辺りまではそっちの筈だったが、社長が振り回し始めた。
 夏以来でコン打ち合番に来ている。初めて行く現場で、駅からバスだ。が、失敗してバスでは間に合わなくなり朝礼直前の現場にタクシーで乗り付けた。二千三百円かかった。朝から敗北感が漂う。

 慌てて設備の元請けの監督にあいさつしヘルメットと安全帯を身に着け朝礼を終え、簡単な説明を聞いた。

  現場は物流倉庫になる。まだ基礎の段階で捨てコンの上に鉄筋を組んでいる。完成したらピットになる部分、通常はメンテナンス要員でもあまり入らない場所だ。しかしかなりの広さだ。これが全部コン打ちだったら二十四時間ぶっ通しで続けても終わらない。もちろんそんなことはなく、一部を打設するだけだ。その一部のさらに極一部にスリーブが入っている。スリーブは全部で六本あった。

 設備や電気がコン打ちに人を出すのは、打設時にスリーブが潰されるのを防ぐためである。万一の時にその場で直すためでもあるが、それよりは人手を出すからお手柔らかに、と言う意味のほうが強い。でなければ日雇派遣に合番なんかさせない。今回のスリーブは鉄筋の上、打設時に歩いている地上から一メートル下、捨てコンのある地面から深い(高い、か)ところで四メートルの位置にある。一メートル下じゃ潰れても直しようがない。土工さん、お願いしますよ、乱暴にしないでくださいね、でしかない。今日は六本のスリーブのために一人工、設備屋から出していることになる。ちなみに今日の打設部分に電気のスリーブはないので合番は僕だけだ。

 地面から五メートルの高さで足元は鉄筋、しかもまだ基礎なので梁の上、幅はあっても一メートル。これは怖い。手摺や足場はほぼない。監督は「本当なら十時三時は交代するんだけど、僕まだ新人なんですよ。だから怖くって。」と言う。どう見ても三十過ぎ、何が新人なのかと思ったら、転職したばかりで建築業そのものが初めてなんだとか。そりゃ無理だわ。

 コン打ちはスリーブの入っている区画の隣から始まった。スリーブの部分は最後に打つらしい。前日に、スリーブのところ打ったら帰っていい、とか言われたが、希望はすぐに砕かれた訳だ。もっとも、スリーブ打ったからすぐ帰ったらそれこそ次以降にスリーブを潰されるんじゃないかと思うが。

 土工はずいぶん丁寧で、バイブが絡まることもなくコン打ちは進んでいく。さらに十時頃には土工が交代で休憩をとっていて、僕にも回ってきた。十分十五分しか休めないものの、気分はいい。

 昼は四十五分休んだ。三時を過ぎると生コン車があと何台と建築の監督が口にし始めた。ん?そんなんで全部打てるの?これは追加で頼んで残業になるパターンか。よくあることだが当然嬉しくなんかない。今日クリスマスだぞ(日付けを書いてない意味がないだろ。)。

 四時前になってスリーブのある区画になった。けどもう生コン車は最後の一台になっている。しかし監督が追加を頼んでいる様子はない。あれ?とうとうコンクリが出尽くした。スリーブは鉄筋の中にあるまま、打たれてない。土工に声をかけられた。「今日はもういいですよ。」ええ!

 唖然としている中、圧送していたポンプ屋も土工も片付けを始めている。本当に終わりらしい。設備の事務所に向かい、喫煙所にいた監督に伝えた。「スリーブ残したままコン打ち終わっちゃいましたよ?」監督も愕然としている。その、えーと、設備屋がコンクリート打設にバイブのスイッチ係として人を出しているのはスリーブを潰されたりしないための「お願いしますよ」であって、えーとえーと、これはどう言うことでしょうか?いや、スゲーわ、こんなの初めてだよ!

 監督だけでなく、職人だって怒り出すような事態である。今日の僕の人工は無駄になったということだ。無料働きと言ってもいい。どうなってんだよこの現場!面白過ぎる。

 すごい展開だったが V社の今年の仕事は多分今日で終わりだ。年末には他にアルバイトがある。