茨城不安定労働組合

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日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(467)鉄筋の上で問答する

日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(467)鉄筋の上で問答する
加藤匡通
七月×日(水)

 都心部のおしゃれな地域に来ている。現場の周りは見事におしゃれゾーン、眼下にはきれいな女の人がいっぱい、小ぎれいな恰好の男の人もいっぱい。そのど真ん中で汗だくになってスリーブ取り付けだのしている。いやーもう、何だかなあ。

 この現場には最近何度か来ている。社長からは手配の時に何も言われなかったが、今日はコン打ちのはずだ。なので長靴を持ってきた。常駐している職人はスリーブ取り付けや墨出しだろうからコン打ち合番は僕だろう。読みは当たっていて、加藤さん今日コンクリと朝一に言われた。終わったら帰っていい?と聞いてみる。帰れるはずもない。何言ってんのと一蹴された。

 八時の朝礼前に設備の監督が来て、コン打ちは朝礼が七時四十五分からと言われて慌てた。そういうことは早く教えろよ。

 コンクリ打設は九時頃から、それまではスリーブ入れやっててと言われ素直にスリーブ入れをしていた。九時前になったが始まる気配がない。建築の監督がいたので聞いてみた。「十時位になります。」そりゃ随分遅いな。

 設備の監督は普段三人だが今日は二人、どちらも二十歳前後と若い。スリーブ取り付けでわからないところを聞いていたら、先輩の方が、若いのが来るから何でも聞いてやってくれと言う。へえ、何でもいいの?交代で建築学科卒二十三歳が、鉄筋が組まれてとても歩きずらい現時点での屋上に上がって来た。「何でも聞いていいって言われたんだけど。」「はい、何でも聞いて下さい。」「私たちはなんで存在しているんですか?」一瞬固まったもののすぐ答え出した。おお、答えの内容はともかく、いい反射神経じゃないか。「人は何で死ぬんですか?」「善はなんで存在しているんですか?」と言ったおよそ建築現場に全く似つかわしくない質問をしてしばらく楽しむ。「その答えだと神を想定してることになるでしょ。あなた神様信じてるの?」とか言われても、監督としてはなんでこんな面倒な人が来てるんだろうとしか思えないだろう。でもまだ「どうすれば天皇制を倒せますか?」とか「どうすれば資本主義を倒せますか?」と聞いたりしないだけましだと思ってもらいたい。えっへん。そんなことをしていたら十時になった。

 建築の監督が上がって来たので聞いた。「コン打ちまだですか?」「プラントが間違えて、今日のコン打ちは中止です。」ええ!ポンプ車のトラブルとかはあったけど、こんなの初めてだよ!・・・でもこれは帰れないなあ。日雇派遣だったら間違いなく帰れるけど、一応設備の本工だもんなあ。ああ、『長靴をはいた猫』見たいなあ。