茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(248)

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(248)残業で集会を諦める
加藤匡通
三月××日(金)
  一月にエレベーター養生に来た現場にまた来ている。この現場はマンションの改修工事、前回は搬入真っ最中だった仮設材は当然にも組み上がりマンションは灰色のシートにすっぽり覆われている。前回は養生として呼ばれたが今回は雑、このシートの中での作業となる。
  実はこの月曜にも呼ばれた。マンション改修とは具体的には壁のタイルや床のひび割れの補修で、各部屋のベランダに入っての作業もある。このマンションは分譲で割とベランダも大きい。大きければいろいろ置きたくなるものであるが、作業にはとても邪魔なので私物は住人自身に動かしてもらっている。しかし植木の入ったプランターは重いので住人には動かせない。それどころか職人でも二人でやっと、いややっぱり無理。そこで中身を空けることになり、月曜に僕らが呼ばれたのだ。プランターは一メートル×三十センチほどの、多分一番大きなタイプだ。土が入っているだけで、二人では動かせない。スコップで中身を掘り出すのだが、小振りな植木ならまだしも腰より高い木などとてもじゃないが根が張りまくっていてスコップが入らない。多分そもそもこの作業にスコップが出てくるところから間違いなのだ。園芸用の移植小手の方がいいんじゃないかな?細かくスコップを使って土を出し、植木が動くようになったら前後左右に揺さぶって根っこにスコップをあてがっててこにしてどうにか引っこ抜く。植木は枝を落とすなりした方が処分しやすいのだろうが、そんな時間もなければ道具もなかった。この現場、元請のゼネコンがマンション改修をもっぱらにしているからなのか、スコップすらなくてマンションの管理人から借りてるんだよ!土は土嚢に詰め、取りあえず他の作業の邪魔にならないようベランダの真ん中に積み上げた。プランター一つで土の入った土嚢が五つか六つ出来てしまうので少ない部屋でも十五、多ければ三十を越えた土嚢が積み上がる。
  こういう時、土嚢は運ぶ時のことを考えて片手で無理せず持ち上げられるくらいの重さにしろ、と言われる。軽すぎてはいつまでも終わらず、重ければ疲れ切ってしまう。土嚢運びはこの場合、災害対策でもなければ体力作りでもない。ましてや記録作りではないので重い土嚢をいくら運んでも誰も喜びやしないのだ。いくつもある作業の一つだからな。
  この作業、経験年数十年を越える二人が一日かけて二部屋がやっとだった。監督は二人で二日と見ていたが、三日はかかるだろう。続けて火曜もと言われたが僕も相方も火曜は休みにしていたので(お互いに火曜が休みの理由を知って驚いた。自分以外の現場作業員が運動に関わっていたことなんてないからな。)、「なら水曜に呼ぶから」と言われていたのだが、水曜はいつものマンション改修現場に呼び戻された。土曜の打ち合わせでは、来週は金土だけかな、と言ってたのに月曜にはもう呼ばれている。水曜は相方が入り、また一日空けて今日は僕の番と言うことらしい。
   ところが、今日の相方は水曜にも入っていた人なのだが現場三日目の新人なのだ!肉体労働そのものが始めてだと言う。もちろんスコップの使い方もわからない。聞けば水曜はベテランがメインの作業をして、なお残業になったらしい。誰だって新人の時期はあるからあんまり言いたくないけどさ、何でこういうきつい現場にそういう手配するかなあ。三時前にやっと一部屋終わり、残業を覚悟した。今夜は都内で「被曝労働者春闘」と言う面白そうな企画があったのだが、監督との関係も出来てしまったのでこの状況で帰る訳にもいかなくなってしまった。
  二部屋目はプランターが九個あり、どうにか三つまでは植木を抜いて土を出した。ここまでで六時。照明も用意されていない現場、しかも他人の庭でこれ以上は無理だ。残りのプランターは植木をちょん切って誤魔化した。監督は苦笑いしながら「わかりました、もういいです」。しかしどう考えてもまだ二人で動かすには厳しい重さだよ。「明日来る洗い屋に泣いてもらいます。」ううん、そうか。相方がもう少し慣れてば、とは思うものの仕方ないな。しかし、植木屋が見たら笑われるんだろうなあ。何やってるんだ、遅すぎるって。
  前回迷った駅まではわかりやすい道だと言われ、今度こそはと行ってみることにした。こっちの方が片道三十円安いのだ。が、当然のようにまた迷った。ようやく駅前の商店街にたどり着き、思っていたよりはるかに立派なことに驚きながら改札くぐってホームに下りて時刻表を見た。ちょうど八時である。八時台は二本、次までほぼ三十分待ちだった。がちょーん!最後までやられた。
  明日はいつものマンション改修に戻りだ。