茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(260)安全大会より『ゴジラ』

加藤匡通
六月×日(土)
  病院新築の現場に四日続けて入っている。窓枠と言うかサッシ枠の位置がよくなくて、窓を開くと脇の壁をこすってしまう。直すのにサッシをずらすのではなく、なんとはめ込み式の壁の方を動かすことになり、しかし壁は当然仕上がったものとして部屋内側にはスタイロが吹き付けてあるので(多分断熱と防音で)躯体と壁を止めてあるボルトを回すことが出来ない。そこでスタイロを削る仕事が養生クリーニングのN社に回って来た。内装でスタイロがむき出しなくらいだから養生もクリーニングもまだ必要ないが、雑の様々な仕事をして養生クリーニングが出て来るまで待っている訳だ。削るのはサッシから少し離れたところを天井から床まで、幅は最大で四十センチ、高さは二メートル半から三メートルと階によってまちまち。高いところは馬に乗っての作業となる。カッターで切れ込み入れて皮スキでえぐるようにして取るのだが、このスタイロが日常見かける梱包用の発泡スチールより密度が高くて思ったほどには進まない。カッターの刃もまあよく折れる。替え刃はN社が用意している。これだけ景気よく折れると替え刃代も馬鹿にならないからこれはありがたい。はじの角の部分はアングルと呼ばれるL型の鋼材が付いていて、その裏に手を突っ込んでスタイロを削るので時間がかかれ。そういった作業を繰り返して天井から床まで削るのに一人一日二カ所か三カ所がいいところだ。
   初日は二人の予定が僕一人、二日目で二人になりだいたいのペースがわかり、これじゃ間に合わないと監督が大量に人を要請して三日目は七人。これであと一日四人いれば間違いなく終わると監督と打ち合わせて今日は四人。N社の職長と派遣会社からの前からいる一人はここ数日の雨対応で止水養生に回っているのでこの四人は別班、なぜか僕が頭になっている。今日で終わり、の筈なのに、梅雨で各階に水が溜まり、止水養生ではなくバケツとスポンジを持っての水替えになった。ちなみにこの事態は止水養生の失敗を意味している訳ではない。むしろ効果があったからこそバケツとウエスでどうにかなるレベルで済んでいるのだ。が、丸一日水替えをしてしまい、スタイロ削りは月曜に持ち越しになった。僕は守谷のシネコンで『インファナル・アフェア』の上映があるから休むけどな。わっはっは。
   今日は派遣会社の安全大会である。スーパーゼネコンの現場では毎月一日は安全大会だが、ある程度の規模の業者は自社でも年に一回から数回の安全大会を行う。法律で決められてるんだっけ?安全教育の一環として表彰だの講話だのがある。僕が所属している今の派遣会社は半年に一度、毎年六月と十二月に行っている。出席してもペットボトルの茶が出るだけ。表彰でもされない限り金も出ない。十年いれば表彰されて、去年の六月に出た時は僕と同期が表彰されていたが、僕は出たり入ったりなので表彰されることはない。ちなみに今の派遣会社は強制参加ではないがなるべく出てくれと言われる。これは会社によっては強制参加だったりする。そのくらいに重要と言うことだ。
   しかし!今日は安全大会に出ている場合ではないのだ。今日は二度目のハリウッドリメイク版『ゴジラ』の公開に先立ち、さらには第一作公開六十年を記念して一九五四年第一作の『ゴジラ』のデジタルリマスター版の再公開の初日なのだ!デジタルリマスターがどうのとか初のデジタル上映がどうのより、チャンピオン祭なんかでの再公開のなかった一作目の六十年振り二度目の公開初日なのだ!これが行かずにいられようか?今日行かなけば次の初日は六十年後、僕は百を越えている、つーか生きてない。いやそもそも次の初日が存在するかどうかすら危うい。時間を調べたら仕事が終わって給料受け取って間に合うのは新宿バルト9だけ。記憶をたどると前回劇場で見たのは、サラリーマン時代の日本教育会館大ホールでの上映まで遡る。九十五年か六年、二十年近く前じゃないか!今日は何としてもバルト9に行って『ゴジラ』を見るぞ。安全大会なんか知るか!