茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(255)ダンガードA

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(255)ダンガードA
加藤匡通
五月×日(木)
  ゴールデンウィークも終わり、マンション耐震改修現場に帰って来た。
  マンション本体から足場へ移るのに、以前は各階廊下に昇降口があったが今は取っ払われている。廊下の突き当たりに、それまでは取り外されていた手摺が復旧され、ガラスまで入っているからだ。なにせ来週には足場の解体が始まる。いつまでも出入りに使う訳にもいかないのだ。とは言っても便利なのでやっぱり職人たちはここから出入りしている。狭い足場の階段を上がって来るのは道具なんか持ってりゃあちこちぶつけたり引っ掛けたりで大変だし、何よりエレベーターを使ってしまえば楽だ。足場の床と手摺の高さが手頃に合っているのは七階で、みんなそこから出入りしている。他の階だと足場と手摺の高さが上手くなくて入る時にリンボーダンスのように身をくねらせる羽目になる。手摺は胸くらいの高さなのでオリオンと呼ばれる折りたたみ式の踏み台をいくつか組み合わせて階段として、無理に乗り越えなくても済むようにしてある。無理に乗り越えようとすると手摺に足をかけて傷つけたり汚したり、悪ければガラスを割りかねない。が、組は別に七階からの、と言うか建物から足場への出入りを許可している訳ではなく、見て見ぬふりをしているだけ、監督によっては注意する場合もある。さっきも、職人が監督とやり合ってるのが聞こえた。職人は「そんなこと知るか!」と大きな声を出している。相手の監督は年度が変わって副所長になっているのに、だ。おお、勇ましい。少し後に詰所に道具を取りに戻ったら件の監督に呼び止められた。「加藤さん、やっぱり七階のあれ、撤去して下さい。」実は七階のあれを今回設置したのは僕である。監督の指示ではない。連休前の最終日、場内の不要材を丸一日潰して片付けたのは僕たちなので(おかげでクリーニングが全く出来なかった)左官屋が設置していたオリオンを、これは便利と真似したのだ。それを分かった上で言っているのだろう。当然片付けた。
   風向きが変わったのは打ち合わせの後、昼飯時である。打ち合わせの後に何やらさっきの職長と副所長が話をしていると思っていたら、若い方の監督が声をかけて来た。現場によくある折りたたみ式テーブルの真向かいに座りながら「加藤さん、お願いがあるんですけど。」「何?物によるよ。」「七階の共用部の手摺のガラスにスタイロ貼ってもらえませんか、両面。それと手摺の上にダンガード取り付けてくれませんか。」ん?何て言った?聞き取れなかったのか?しかし既に頭の中では佐々木功が歌い始めている。若い監督は僕の後ろを指差して「ダンガード」と繰り返した。振り向くと詰所の隅の門に立てかけられた見慣れた養生材、フィルムとブルーシートの他に茶色い細長い物がある。硬いボール紙製で断面がL字型の、階段やエレベーター入り口の角を養生するのに使う部材で、僕はコーナーガードと聞いているが、あれか。段ガードね。「あれが合体して巨大ロボになるの?ダンガードA?」二十八才の監督は当然何のことだか分からないが、僕の隣に座っている四十代の同じ派遣会社の同僚は吹き出している。
  この後、段ガードとスタイロベニヤで手摺を養生した。そこへ鳶が短管で梯子を組んだ。やっぱり出入り口は必要なのだった。
  ところでダンガードAって合体したっけ?変形だけ?