茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(336)顔認証

加藤匡通
三月××日(金)
前からぽつんぽつんと呼ばれる現場に入ったら、写真を撮られた。顔認証用だと言う。前回入った時に顔認証のシステムが導入されているのに気付いていたが、その時は何も言われなかった。パソコンの前で、カメラに向かうでもなく写真を撮られ、はい終しまい。あっけないもんだ。撮る側にとっても撮られる側にとっても写真を撮ると言う行為は限りなく軽いものとなっている。パソコンを操作していた監督に魂を抜いているつもりなど欠片もあるまい。
全くの余談だが、写真を撮られていて二度目の逮捕時の取り調べを思い出した。一度目は九十八年で、その時は調書はパソコン、写真はデジタル、指紋採取は黒インクと紙にペタンだったと思う(八月十五日の靖国で爆竹を鳴らしたのだ。そんな訳で十一月のトイレの件は支持している。あ、これは個人的な意見だから。)。二度目は〇三年の三月で、指紋採取が特殊なインクをつけてスキャナーで読み込ませる方式に変わっていて驚愕した。スキャナーになると写り具合がその場ではっきりわかるし何度でも簡単にやり直せるので、手に力を入れたり抜いたりして指紋が正確に写らないよう加減するなんてことも出来なくなる。スキャナーを見た時の驚きは「こんなところにまで技術革新だかデジタル化の波が」と言う驚きであり管理が強化されることへの「上手くやりやがって!」と言う苛立ちでもあったのだが、今回写真を撮られているさなかに小さなコピー機のようなスキャナーに指を押し当てさせられて指紋を採られた際の驚きと苛立ちを思い出していた。
  撮影した事務所と認証システムのある現場は少し離れていて、認証システムは現場の入口に設置されている。小屋の中に一方通行の出入口がそれぞれ設けられ、出入口を仕切っている真ん中の壁には小さなカメラとモニターがかかっている。カメラの前で正面を向くとモニターに映って認証したかどうかが表示される。認証登録した直後こそ認証システムのカメラの前を通ってもなかなか認証しなかったが、数回で僕を覚えたらしくカメラ正面を向いたまま蟹歩きで横切っても認証するようになった。さすがに普通に前を向いて歩くと認証しない。最初は正面向いて立ち止まっても認証しなかったのだから大したものだ。もっとも本気の軍事用はとっくに日常動作でも認証出来るシステムを開発しているだろう。民間に下りてくるのは一段か二段格下の物に決まってる。
当然僕はこの技術そのものもこの技術の現場導入も称賛しない。こんなもの、治安管理のやくにしか立たない。僕はいつでも監視され登録され認証される側であって決して監視し登録し認証する側にまわることはない。間違ってもそっちに回りたいだなんて思わないけどな。治安管理は支配する側の利益であって僕たちの利益ではない。指紋も静脈も顔もデータとして集められ資本や権力のために使われる。僕は古くさいことを言っているのだろうか?そうした管理を当たり前の、必要なものと受け止めるのは資本や権力の視線を自らのものとしているからだが、そんなもん騙されて勘違いしてるだけ、最後には使い捨てられるだけさ。労働者に経営者目線で仕事しろと追い立てて労働者がその気になればきりのない労働強化が待っているのと同じ、最後には自分の首が絞まる。
が、そうは思っていても現場では言えない。顔認証への同意は端から求められもしなかったが、同意を求められても選択肢は一つしかない。「同意しない」に丸をつければ帰されるだけでその日の日当は入らない。建築現場でこの種の同意を拒否するのは飢える自由を手にすることでしかない。己の身体情報を渡さないとたかだか九千円の日当すら手に出来ないとは実に腹立たしい。しかも諸般の事情からそうそう飢える自由を手にする訳にも行かなくなっている。くそ、やってられるか。