茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

日雇い派遣日記(66)新規入場者教育

十二月×日(水)

                  加藤匡通

 一年振りで詰所のある大きな現場に来ている。と言っても屋内駐車場のスペースに机椅子があるだけで、屋根が深い(なんか変な言いまわしだな)ので雨はしのげるが風はしのげない、吹きっさらしに近い。昼寝で風を感じるのだ。それでも詰所があるとないでは大違い、弁当だって机で食べることが出来るし机に突っ伏して寝ることも出来るがこれはやらない。人数が少ないので広々と使えるから長椅子に横になれる、わざわざ突っ伏す必要はない。
 詰所だけでなく現場事務所まである。ゼネコン現場みたいだね。もっとも一日監督が詰めているのではなく、午前半日で引き上げてしまう。けど入退場時間は記入するし、今朝はなんと新規入場者教育の用紙に記入した。これは久しぶりだ。
 新規入場者教育は元請けの会社が現場の作業員に実施すべきものである。作業員の雇用関係を確認し、近隣とのトラブル防止、労災防止のために現場ルールの説明、万一に備えての連絡先の確認などを行う。本来は用紙に記入した後で監督から現場ルールの説明がある。場合によってはビデオを見せられたりもする。大きな現場程説明が長くなり、新規が終わって作業場所にたどり着いたと思ったらすぐ十時の休憩だったこともある。この現場は用紙に記入して終わり。
 日雇派遣だった時は現場を変わるごとにこの新規入場者教育を受けていた。たいていゼネコンが元請けだったので労働者の管理はしっかりされていたということだ。慣れてりゃ現場の職長には一次、二次の会社名、つまり元請けに対して名前を出している会社と自分が給料をもらっていることになって いる会社(給料をもらっているのは派遣会社からだが派遣会社の名前を出せないこともある。孫請けの孫請けともなれば責任関係が出鱈目になるからだが、そんなこと知ったことか!)の名前の確認と職種、自分が何工として現場に入ったのかの確認だけしてあとは適当に埋めてくが、初心者は健康診断や雇い入れ通知、安全教育なんて項目で片っ端からつまづき全てを正直に受けてないと記入して監督にチェックされてしまう。派遣会社によってはこれらの項目をきちんと指導してるところもあるが、健康診断も安全教育もやってないとこだって多い。そのしわ寄せが現場の新人に、非熟練労働者中の非熟練労働者に行ってしまうんだな。言われた本人は訳も分からず目を白黒、監督と職長は舌打ちしてるという朝から誰にとっても気分のよろしくない場面が展開されてしまう。でもこれは末端の労働者が悪いんじゃないよ。
 さて、今朝のこと。現場は小振りなマンション、中もまだ出来上がってはいない。毎度のごとく僕が一番乗り、と思ったら先客がいた。僕より少し年上らしき人が現場の前で人待ちの風情。なぜか現場に入ろうとしない。何だろうと思っていたら、八時過ぎに運送屋のトラックが来たら荷物を下ろしだした。そのまま運送屋と一緒にトラック二台分のシステムキッチンを搬入して九時過ぎには帰ってしまった。彼は日雇派遣だったのだ。一年前なら間違いなく朝見た段階で気づいたろう。駅集合でも現場でも、見れば同じ日雇派遣はお互いたいがい気付いた。駅前で見かければまだ区別はつくと思うが、やはり僕はもう日雇派遣ではないのだなあ。彼にとっては朝一時間だけ、それも簡単な搬入で一日分の日当とさぞやおいしい現場だったに違いない。