加藤匡通
十月××日(木)
都内南部の現場に来ている。監督の担当地域が変わったらしい。しばらく南部が続くみたいだ。乗換で朝秋葉原に出るのはずいぶん久しぶりである。Y社の仕事で秋葉原まで出た憶えないな。
みらい平駅六時二十五分発の電車は、日雇派遣に復帰した当初こそ二日に一回は座れたものの今は週に一度も座れない。つくば方面の人口が増え、都内へ通う人間が多くなっているということだろうか。でも、これ以上は増えないんだろうな。逃げられないのは仕方ないけどわざわざ引っ越してくるのは止めた方がいい。
生まれ育ったのが世田谷の三軒茶屋なので都内南部は東部に比べたら馴染みがある。十代二十代の頃は名画座や二番館がまだあったのでうろうろしていた。武蔵野推理劇場(後に自由が丘武蔵野館)、大井町武蔵野、蒲田宝塚、キネカ大森、二子玉川東急、下高井戸シネマ、三軒茶屋東映、三軒茶屋映劇、三軒茶屋中央劇場なんてところだが、こう書いていて半分しか残ってないと気付いて愕然としている。ピンクの劇場に至ってはこの地域は全滅だ。いつか行こうと思ったいたらまるでなくなっていた。自由が丘の光座しか名前はおぼえていないが、大森や下北沢にもあったし、三軒茶屋中央と三軒茶屋映劇も一時期ピンク館だった。
現場の前も工事現場、こっちは個人宅だがあっちは公共工事で朝が遅い。八時半を過ぎないと人が来ない。羨ましい限りだ。
帰りにうろうろしていたら古本屋を見つけた。エロ本とエロDVDばかりの店内に小関智弘の『羽田浦地図』があった。この人のルポはよく見かけるが小説の方はほぼ見ない。『春は鉄までが匂った』の文庫版あとがきでの書名が事実そのものであることを理解しない知識人への批判など実に小気味良い。前から小説も読みたかったので買った。本当はまだ新刊で手に入るから自分の首を絞めてる気もするが、目立つ位置に置いてあるのは場所柄というよりエロ本に囲まれた中での店主の意地でもあるのだろうと思ったらそれに応えたくなったのだ。
いそいで付け加えれば、もちろんエロ本はエロ本で大変重要であります。お世話になっていますとも、ええ!