茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(213)ピット内清掃を堪能する

加藤匡通
五月××日(木)
   先週月曜から同じ現場だ。二十三区内のJR線路沿いの現場である。大きな現場だが、まだ地上での作業は始まらず、地下一階から立ち上がる壁やらにやっと手がついた程度である。
   派遣先は三年前の夏に草刈りで入ったところだ。あの時は何屋なんだかさっぱりわからなかったが、今回ようやく養生・クリーニング屋と判明した。もっとも、この現場での仕事はまだ雑工、養生・クリーニングの出番はまだまだ先だろう。何も出来上がってないからやるところがないのだ。
   作業内容はピット内清掃。待ってました!って感じである。ピットは建物の最下部にある小部屋で、将来的には雑排水を貯めたり点検用に使われるのだと思う。天井は低く、直立は出来ない。広さは様々、明かりは無く、たいてい水が溜まっているので長靴が必要だ。型枠を引き上げるのは型枠大工の仕事、その次の片付け清掃、水抜きが僕たちの仕事である。大工が忘れた型枠材をひっべがし、水を抜き、壁の釘やピーコンを取り、壁に薄くひっついた型枠の残りをけれんし、床の掃除をする。大きい物を出したらまず水抜きからだ。水中ポンプを設置して水を抜き、ポンプが吸わない量になったらスポンジやウエスを使ってバケツに入れて出す。ポンプを設置するまでは電源引っ張ってポンプのホースを引っ張って水を出す先を確認して、と面倒くさいが、自分でもなぜだかよくわからないが僕はこの作業が大好きなのだ。スポンジやウエスで床に残った水気を拭き取り床をきれいにしていくことの楽しさと言ったら(こういうことを言うから変態扱いされるのだと言う自覚はある。)!一日中腰、膝を曲げての作業なので腰に悪いのが最大の欠点だが、それを補って余りある楽しさである。…いや、言い過ぎかな。足下の水はポンプでは吸い上げられないくらいは抜いとかないと他の業者は入れないし、僕たちも動きづらい。水気を取ったら箒で掃いて泥を取り、送風機を突っ込んで床を乾燥させて終わりとなる。
  十五年前はピットの中で煙草を吸ったりしていた。数人で人通口と言う直径一メートルくらいの穴を何度もくぐってたどり着いた作業場所に、もちろん明かりなんかないのでコードを延々と引っ張ってライトを持ち込むんだけど、そういう時に限ってライトはよく落ちた。間違って割ることもある。そうすると仕方ないから一人が真っ暗の中携帯の明かりなんかを頼りに電源の復旧に赴くと、残りは真っ暗の中で煙草を吸い出す。今では有り得ない光景だ。それともスーパーゼネコンでなければ今でもやってるのだろうか。ま、煙草吸わない僕にはあまり関係ないんだが。何度も電気が落ちると段々面倒くさくなっていって、人も出さずに「そのうち表で気付くだろ」と復旧をぼーっと待つようになる。
    ピット内は天井が低いので圧迫感は強い。この現場ではピットに入る前に酸素濃度を測っている。本来は当たり前で、さらに送風機を設置して空気を送らなければならない。しかしその両方をやっている現場は初めてだ。それどころか派遣会社からは「第二種酸素欠乏危険作業に関する特別教育修了証」までもらっている。そんな教育受けてないのに!
  楽しそうなことばかり書いているがこの現場、足下が極めて悪かった。この二、三日で鳶が足場をばらしたのでとても同じ現場とは思えないほどに片付いたが、先週は、通路はまだしもピットの入り口がある辺りは天井や壁のコン打ちをした時のまま型枠材を支えるためのサポートなんかがそのままになっていて、足下には型枠の端材のサンギやコンパネ、下手すりゃ解体した型枠材が釘も抜かずに転がっている。サポートは一メートル間隔で林立していてその中をライトや水中ポンプを持ち運ぶのは、何も持ってなくとも腰につけてる安全帯がサポートに引っかかって邪魔なのに、どんな嫌がらせだよって感じだった。本番のピット内清掃を始めるまでの段取りに仕事の半分を費やしていたと言ってもいいさ。初日の朝一番に派遣の仲間に言われたのは「ここ、足下酷いから」だったが、確かにここは凄かった。僕が知る中では最大級の足下の悪さである。足下の悪さに現場見て笑い出すことはそうそうない。
  ところでこの現場、詰所に売店がある。それどころかシャワーまである。現場の規模が大きいからと言ってこれらはどこにでもあるものではない。Y社に行くまでの半年間、前回日雇派遣してた時にそんな現場に当たったことはなかった。売店は朝七時から夕方五時までとあるが四時湯半には閉まってる。バンやおにぎりと言った軽食と昼の弁当、飲み物、それから軍手くらいまでは売っていて、僕も水抜き用にゴム手袋を買った。シャワーはもちろん使っている。職長に確認したら当然OKだったが派遣会社の同僚たちはびっくりしていた。いやいや、せっかく現場にある施設は使わにゃ。シャワーを使う職人は、とは言えやっぱり多くはなくて毎回同じ面子で「さっぱりしていいよなあ」と言いあっている。
  これは当分続くだろうと、秋葉原までの回数券を今朝買った。休憩中に求人誌でこれはと思うところを見つけてしまい、電話したら明日面接と言われた。この機会を逃すと面接自体がなくなる可能性もあるので行くことにした。これでこの現場に戻れず、さらに秋葉原を経由しない現場が続いたら回数券は使えないままになってしまう。長期的には得をしているはずなんだが、財布はとても痛い。また外れくじを引いたかな?それよりピットとこれでお別れかもしれないことを嘆くべきか。