茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(245)現場に忘れ物をする

加藤匡通
一月××日(金)
  朝、現場集合で道に迷い、遅刻した。うるさい現場でなかったから助かったが、これがスーパーゼネコンの現場なら追い返されてる。おかしいと思ったら隣の駅が見え、しかしどう修正すればいいのかわからず、やっちまったと思いながら寒いのに汗だくになって朝礼も終わり作業が始まっている現場にどうにか駆け込んだ。しばらく前に「集合時間に遅れて来る奴はたいがい仕事が出来ない」と派遣の同僚と話していたが、仕事が出来ないのはワタクシでございます〜。ああ、ごめんなさい〜。相方は時間通りに到着し、当然にも作業を始めている。
  今日の作業はマンション改修工事の玄関養生で、ゼネコンの一次として派遣会社から二名で来ている。昨日手配の電話でしつこく「僕でいいのか、僕でも出来る養生なのか」と聞いたが、「簡単な養生だから大丈夫です。一人で足りるけど念のために二人になっているので多分時間いっぱいかかりません。」と答えられていたので、遅刻を詫びながら何度も一緒になった相方に聞いてみた。「いやいや、目一杯でしょう。」。昨日が現場の初日で今日から本格的な作業、乗り込みとしてまずはマンション玄関とエレベーター、つまり作業員の動線の養生だと言う。ああ、それはかかるね。やっぱり嘘だったか。相方は既に玄関前の柱の養生を始めている。当然僕がエレベーター養生となる。遅れた僕に拒否権はない。恐れていた通りの展開になってしまった。僕たちの周りでは鳶がマンションを覆う足場材を運び込んでいる。
   エレベーターは道具や材料を動かすのに大変よく使うのでしっかり養生をしないといけない。工事が終わったら傷だらけでは格好がつかないし、それ以前に修理代がかかってしまうからだ。これが面倒でなあ。エレベーター内部を全面養生ともなれば脚立を持ち込んで天井まで覆わなきゃならない。今回壁は薄ベニの高さまででいいと言う。下地の253は貼らなくていいのでプラ段を直接壁に、粘着力の弱いパイオランテープで貼っていく。その上に薄ベニを貼る。どちらもエレベーター内部の形に加工しなければならないが、薄ベニはカッターで切る。手を切っては洒落にならないがカッターはやはり切りづらい。天井はプラ段だけで充分明るかったが、蛍光灯を取り替える必要から照明部分をくり抜いた。階数ボタンはフィルムで覆い、床にはブルーシートを敷く。作業中も住人はエレベーターに乗ってくるのでその度に慌てて養生材も僕も端に寄る。僕も住人もお互いに恐縮していて頭を下げあっている光景は微笑ましいと言っていいのかもしれない。住人が下りたらすぐ作業再開、を繰り返し上下するエレベーターの中で作業をしていると、段々なんだかふわふわだがくらくらだかしてくる。酔っているのだ。これだけの作業だが、僕一人で九時過ぎから始めて三時過ぎまでかかった。やっぱりかかり過ぎだよなあ。もっと本格的な養生ともなれば薄ベニにスタイロの貼り付いた者を加工して壁に貼り、角にはサンギをあてがって補強し、と手間はふえて二人で半日以上かかる作業になる。
  エレベーター養生を終えてから玄関ロビーの床養生で滑りにくいゴムシートを二人で敷いて片付けをして、どうにか作業は終わった。現場を出たのは四時半だった。
   朝、間違えて隣の駅まで歩いてしまうくらいなので、この辺は駅が割と近い範囲に複数ある。現場に一番近い駅は電車代が高くなるので使わなかったのだが、朝下りた駅への道は迷ったくらいんだからわからないし、一番近い駅のある路線には乗ったことがないので乗ってみることにした。少々高い電車代を払って初めて乗る電車にきょろきょろしながらも無事に乗り換え、さあこれから丸一時間座ってられるぞ、本でも読むか、とリュックを弄って(この漢字、なんだかいらやしいな)気が付いた。本と弁当箱がない!よーくリュックを点検、やはりないので元請の監督に電話をしてまだしばらく現場が開いていると確認して改札で切符を払い戻し、さっき初めてだと喜んでいた電車にまた乗った。監督の電話番号は必ずしも知っている訳ではないので、今回は僥倖だった。初めて、の電車に一時間で結局三回、同じ区間を乗った。普段まったく見ないタイプの電車なので面白いけど、事情が事情なので三回目ともなると初めのうきうきは失せてどよーんと無くした一時間を考えてしまった。あーもー何やってんだか!
  読んでいたのは『靖国 知られざる占領下の攻防』と言う本で、僕が参加しているとある学習会の今月のテキストである。比較的最近の本なのにもう手に入らなくなっている。古本屋でまあ定価以下で買えるだろうが、ネットだと誰かが買えばどんどん値が釣り上がって行く。しかし締切のある読書会ともなればいつか出会え日を気長に待つ訳にはいかずネットで二千二十九円で買った本である。これで無くしたら二重三重の痛手だ。それに今日取りに行かなければ、この現場方面に足を向けることなんてないから本を回収する機会もなくなってしまう。
  すっかり陽が落ちた中、今度は迷うことなく詰所に行くと本と弁当箱は段ボール箱の中にあった。帰り際、自分の荷物を片付ける時に置いたらしい。なにせ箱の中なのでそのまま視界から消えてしまい、リュックに入れたと思ってしまったようだ。あーもー何やってんだか!