茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(246)塗装ケレン再戦、またはオカモトは偉い

加藤匡通
二月×日(火)
  毎朝目覚ましが鳴ってから、今日は仕事に行くんだっけと考え、布団から抜け出している。ゆっくり眠れる日が待ち遠しい。今はだいぶ余裕を見て四時半起きだ。
   耐震改修工事の現場に戻ってきている。最初の一週間は毎日残業だった。今回もはつり屋の相番、朝まずはつる箇所を養生してはつりが終わった夕方に養生撤去、清掃なので一時間半程度は残業になってしまう。残業すると映画が見れないどころかうちに帰って新聞読む余裕もなくなるんだがなあ。六時に終わっても一時間半残業である。僕たちが養生を終わらせないとはつり屋が作業に入れないので十時の一服を取らないでやっているからだ。
  はつり屋はベランダの内側上部の壁、サッシの上の部分とベランダの軒先、張り出し部分の壁(鼻面と呼んでいる)の塗装を薬品を使って剥がし、剥き出しになったコンクリ面を目荒らしする。そこにアンカー屋がアンカー打って鉄筋屋が配筋し、型枠を組んでコン打ちとなるが、平らできれいなままのコンクリ面だと生コンの付きが悪いので軽くはつってコンクリの食いつきをよくするのだ。はつりで出るガラでベランダのサッシを傷つけないためにに薄ベニの付いたスタイロフォーム、つまり発砲スチロールの板をはめ込み、事前に取り付けてあった金具にサンギを通して言わば閂をかける。スタイロはもとからサイズがサッシ片面と言うか一枚とほぼ同じサイズなので加工の必要はない。さらにサッシとスタイロの隙間に埃が入らないようにガムテープで目貼りをする。目貼りには冬場だからガムテープを使っているが、暖かくなればテープの糊が残るのでガムテープはつかえなくなる。床にはロールになってるブルーシートを敷き、エアコンの屋外機に今回の作業のために作ったフィルター製のカバーをかけ、さらに階下にガラが落ちないように下の階の天井にも大き目のブルーシートを突っ張り棒を使って張り、鼻面からすぐ隣の足場に向かってシートを伸ばす。ここまでやって養生は完成である。作業箇所や内容によって多少は簡略に出来るが、次の作業が待っていると思いながらなのでどっちにしろ追われている。
  幸いにもはつり屋も一週間でペースがつかめ、残業はなくなった。仕事が終わって帰りに手を洗うと、冷たくてかなわない水が玉となって手を伝い落ちていく。皮膚に染み込んだコンクリの粉塵が水をはじいているのだ。そうそう、文部省ではつり屋やってた時もこんなだったよ。
  と言う作業もはつり屋の作業と共にそろそろ終わり、もう一日か二日でこの現場もしばらく開けかなと思いながら打ち合わせに出たら、監督から「申し訳ないんだけど実は」と切り出された。ベランダの天井は手付かずで何もせずに残っていたが、設計との打ち合わせで塗装は剥がせと言われたと。はつり屋は次の現場が決まっていてスケジュールに余裕はないと答えた。そりゃそうだろう。ゼネコンの監督は頭を下げているけど、打ち合わせに出ている各社の職長の顔は苦り切っている。ベランダ天井はこれから墨出ししてアンカー削孔、配筋となるはずだったのだ。スケジュールは遅れるが工期は伸びない。皺寄せは各社に来る。はつり屋だって気持ちのいいはずがない。終わったと思ったらやり直しを命ぜられるようなものだからだ。で、当然のように雑工事も引き受けるI社にその仕事は振られ、監督から「加藤さんお願いしますよ」と肩を叩かれてしまった。また一階から十階まで養生とケレンを繰り返すのか。ほぼニ週間の延長戦だ。職長と言っても手当ても何もないから伸びたからって別に嬉しくないんだが。丸一カ月振りですか。派遣会社に伝えると露骨に嫌がってた。人手が足りないので早く終ってよその現場に人を回したいらしい。I社は上客じゃないのかよ。
   前回は壁だったが今回は天井なので前回以上の完全装備、ゴム手、ゴーグル、マスク、ゴム長に加えて合羽も羽織っている。目鼻口と覆われ雨の中やってる訳じゃないので汗をかくくらいに暑いが、合羽を着ていないと溶剤が服に着いてしまう。さすがに穴は空かないだろうが染み込むと厄介だ。だから合羽は脱げない。養生ははつり屋対応の物に加えて、階下への落下を気にして天井の脇の鼻面からマスカーを垂らしてベランダの端にフェンス代わりに立っているメッシュシートにテープで止めてある。その代わり下からの突っ張り棒での養生はしていない。これはつまりベランダは中の溶剤で溶けた塗装が周りに出ないように閉じられている訳だ。なおさら暑いし、何より溶剤の匂いが籠もる。マスクは溶剤を通さない物を使っているが、息苦しいから外したりすると戻すのを忘れて作業を続けてしまいぼーっとしてきたりする。「加藤さん、おかしくなってます。」だからそうなる前に表の空気吸えよ!天井に塗った溶剤がヘルメットに垂れればその部分は溶けるし(さすがに穴は空かない。しかしはっきり溶けたのはわかる。)、溶剤を入れたバケツに刷毛が落ちたからとゴム手で溶剤の中に手を突っ込むとしばらくすると手がヒリヒリしてくる。溶けてるんだよ。いや、実に強力だね。
   最初に使っていた合羽は紺色の、多分現場でよく見るタイプだったが一日着ると裂けていたりする。で監督に使い捨てにするから安物でいいと伝えたら、白の半透明の合羽が届いた。安物のはずが前のものよりゴワゴワしなくて動きやすいしなかなか破れない。なんだこっちの方がいいじゅんと話していて、ふとメーカーを見たら、オカモトと書いてあった。なんだ合羽も作ってるんだ、そりゃ着心地がいいはずだよ破れ難いはずだよと一同納得した。長いことお世話になってませんでしたがこんなところで。
  しかし自分たちのペースでいいとは言え、養生して立馬入れて溶剤塗ってケレンして養生片付けて、をいくら熟練者が揃っているとは言え四人でやるのはきついな。組は金を出すと言っているから一人増やすよう会社と交渉してみよう。