茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(280)バーベキュー、あるいは酸っぱい葡萄

加藤匡通
十月×日(金)
  火水と同じ現場に入っていた。広い敷地の一角にある新築マンションの養生・クリーニングである。何かの跡地の再開発だろう、他にもマンションがもう一棟、さらにまだ手も着けられていないがもう一棟建つ物があるようだ。かなりのスペースが思い切り掘り下げられていて、鉄骨が打ち込まれた地面の上に構台が組まれている。深さは二、三十メートルあるだろうか。朝夕は敷地の一番端にある通路を歩いて詰所に向かうのだが、通路は仮設材で組まれた足場で構台と地続きではない。つまり通路からは構台の下が丸見え、これは怖い。高いところは苦手なんだよ。さらに、直下の足下はそんなに深くはないものの、四メートルの足場板で組まれた通路は歩くとしなる。そんな、吊り橋じゃないんだから勘弁してくれよ。どれも現場じゃよくあることなんだけどさ。
   作業は養生・クリーニング、昔別の派遣会社にいた時にも何度も入ったことのあるJ社である。そうか、この会社も入ってるんだ、確かにかつても派遣が大量に入ってたよな。J社はどの現場にも大量に人を入れている印象がある。
  火曜は部屋内の出入口にある木枠の角にはまっている養生を取って回った。ミナガードと言う引っ越しでも見かけることのある、派手な色をしたウレタン製の養生材で着けるのは簡単、ただかぶせるだけ、取る時は外すだけだ。しかしそれがワンフロアに三百あると見落としがないよう小部屋や押入れ、もといクローゼットも覗いて全部取って回るだけでいい手間である。さらにそれを上の階に盛り変えし、また取り付けていく。外すのも取り付けるのも一人だが、エレベーターを使っての盛り変えだけは量が多過ぎるので二人でやった。水曜は一日部屋内のクリーニング、バケツとウエスを持って回っていた。これはもちろんつまらない。
   木曜は私用で休み、問題は今日である。昨日最初に聞いた手配では火水の現場に戻りだった。十月第一週は全国労働衛生週間で大きな現場だと毎日なにかしらの行事があり、木曜は三時からバーベキューと聞いている。現場のバーベキューには今まで二回参加したことがある。そんなにたくさん肉が出る訳でもないし、酒が飲めた頃は飲み放題な上に無料酒な訳だから楽しめたが酒をやめてからは当然面白くもなんともない。が、まあその時間は少なくとも作業はないので嬉しくはある。同僚からも「木曜バーベキューだからカトちゃん戻って来なよ」と言われている。じゃあ、明日はバーベキューに行くか。バーベキューしに行くんじゃなくてクリーニングしに行くのだが、そこは置いといてくれ。五時過ぎに電話が鳴った。「加藤さん現場変えていいですか。」それ、拒否権あんのかよ。
  と言うことで今日ははつり屋の手元、はつったガラをバールでかいては袋に詰めている。八階建てのビルで躯体はまだ一階までしか立ち上がっていない、その一階のコン打ちで失敗し生コン車一台分のコンクリが流れ出し、地上一階から地下二階まで階段を電源コードな類も巻き込みながら流れ落ち、さらにビットに落ちてご丁寧にも湧き水を貯めたりするための釜場を排水ポンプごと埋め尽くした。生コン車一台分だから五トンだ。型枠大工のみならず監督にとっても悪夢のはずだがこの現場では一度や二度ではないらしいのだから恐れ入る。コンクリ打設の真っ最中なので一階には型枠が組んであるがその下は型枠を支えるサポートが立ち並び人一人が体をくねらせながら通るのがやっと。なのに階段もどこも足元は全てコンクリートで埋まり極めて歩きづらい。サポートを取ろうにもサポートもコンクリでがっちり固まっている。物凄く狭いのではつりガラは一袋ずつしか運べない、と悪条件だらけ。一度に大勢入れても動けないから少人数でこつこつやって行くしかないのだが、はつり屋に今のペースで全部終わるまでにどのくらいかかるのかと聞いてみた。「ガラ出しを考えなくても一カ月は軽く越す。終わりは見当がつかない」それは躯体コン打ちが終わってもまだまだはつってるかもしれないってことですかと聞いたら、そうだと言われてしまった。わっはっは。そりゃ凄いや。
  足場も悪く埃だらけでマスクを着けなきゃ出来ない作業だが、僕は自分ではつってすらいないのに、こういった作業が大好きなのだ。どんどん高揚して来るぞ。バーベキューに行ったって暇を持て余しているに違いない。いやあ、楽しいなあ!あの葡萄は酸っぱかったに違いない!