茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(279)昔とった杵柄は古くなっている

加藤匡通
九月××日(日)
  昨日はマンション改修現場で仮設材の搬入だった。スーパーゼネコンに一次で僕のいる派遣会社が入っている。このスーパーゼネコンは十五年前に別の派遣会社で散々入った。僕が職長で雑工としていろいろやっていたが、最終的には酒で派遣会社を追い出された。その時は仮設材の搬入、移動どころか三段くらいまでなら組み立てもばらしもやっていたので、駐車場にユニックで下ろした仮設材をハンドリフト使ってマンションの反対側へ移動し、ハンドリフトから下ろしてこれから地組みする手前に仮置きするだけの作業などラクなものだ。派遣が三人に鳶が一人で追い立てられるでもなければ仮設材を上にいる鳶に渡すのでもない。それどころか運びだけで足場に昇る作業じゃないから安全帯をしなくていいと、監督が言うので安全帯もしていない。ここはゼネコンの中でも一番うるさいところだったはずだが、どうなっている?
  一緒に作業している派遣会社の同僚のうちの一人は去年ピット清掃現場で一緒にピットに潜っていた人で、「どの加藤さんかと思った」を皮切りに延々その後の報告を二人でしながら仮設材を運んでいた。彼はピット清掃の現場に最近まで入っていたそうで、現場そのものは敷地が広く新しく建てていたりするのでまだやっているのだそうだ。一年同じ現場とは長いな。
  仮設材は午前と午後にニトンユニック一台で入って来た。ユニックで小分けにして下ろし、ハンドリフトで歩道を通って足場を組んでいる駐輪場で下ろす。駐輪場には自転車が置いてあるので仮設材を振り回す訳にもいかず、だから急かされないのもあるが、鳶の手元でこんなにのんびりしているのは珍しい。まあ、仮設材の量が少ないからと言うのはあるだろう。のんびりやっても四時には終わってしまったくらいだ。
   派遣会社に寄って日当分を受け取り、映画を見に行った。チリのピノチェト政権が倒された選挙を野党側の広告屋から描いた『NO』と言う映画である。実に興味深く、いろんなことを考えさせられた。パンフも当時のことだけでなく現在にいたる説明も載っている、珍しく丁寧な作りだ。が、僕はこの八十八年の選挙のことを全く覚えていない。大学二年、新聞も読んでるし、それなりに世界情勢にも関心を持っていると思っていたが、この体たらく。自分が不勉強だった過去は変えられない。この先同じ後悔をしないよう努力をするしかないな。自信ないけど。
  さて、今日である。車を運転していると、ハンドルを握る腕が軽く痛む。なんだろうと考えて、昨日の足場材だと思い至った。あんなにラクな作業だったのに!