茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(常雇?)(439)ピットで『インターナショナル』を歌う

賃金奴隷な日々  日雇派遣日記(常雇?)(439)ピットで『インターナショナル』を歌う
加藤匡通
六月×日(金)
    二ヶ月強通っている現場も終盤に入っている。派遣会社から来ているみんなは空調機器の清掃だが、僕は空調の監督について場内の仮設材回収だ。機械の拭き掃除なんかごめんなので自ずから回収に志願している。
    二年やっていた現場なので、空調JVだけでもかなりの量の仮設材を使っているが、基本的には全部リース品だ。しかしリース品にも関わらず、相当な数が回収出来ていない、つまり行方不明になっている。見つからなければ買い取りだが、買い取ったって紛失に対する買い取りだからJVは出て来なければ丸損にしかならない。探し廻ってようやくその額は一千万を切ったと言う。そんなにあるのか!とびっくりする訳だが、必死になっているのは一人の監督だけだ。この空調JVはどうなっているのかと思わなくもない。その監督と場内を歩き、仮設材を見れば近づいてリース会社を確認して廻っている。
    今日は仮設材の回収でピットを見ている。場内の大抵の場所は何度か廻っていて、新しく出てくる可能性は低い。マンホールの中はまだ覗いていなかったので葢を開けて中に潜って確認しているのだ。本来は危険作業でピットに入る前には酸素濃度を測ったりしなければならない作業だが、今回は大幅に簡略化してある。結構水が貯まっているところもあるので長靴を履いている。前に書いたがピット内清掃は大好きだ。しかし今回は作業らしいことは何もない。蓋を開けて、入って、何かあれば確認して終わり。面白くない。
    ピットに潜っても収穫は少ない。仮設材はほとんど見当たらない。他の業者との兼ね合いで潜れないピットもある。監督は忙しいので途中からは派遣会社の同僚と二人きりで行うことになった。僕が潜る役でもう一人は地上での見張り役だ。今日潜れるピットの数もそう多くはなく、あまり手順よくやっていくとかなり早く終わってしまい掃除に廻されてしまう。どこかで時間をつぶさねば。
「酸欠で倒れたらすぐ助けに来てくださいね!」ピットの中で僕が大声を出す。「いえ、入りません!」これは正しい回答で、すぐ助けに入れば二重遭難の可能性が極めて高いので、救助隊を待つことになっている。「えー、助けてくださいよ。死んじゃいますよ。仲良くピットで心中しましょうよ。」「加藤さんと心中する気はありません!」「えー、誰ならいいんですか?」「教えません!」
    ピットはコンクリに囲まれた狭い空間なので、音はよく反響する。中から声をかけても反響しまくるので聞き取れないことも多い。水もあるし、風呂場みたいなもんだ。暑い地上からピットに入るとひんやりして気持ちいい。
    「ちょっと歌歌っててもいいですか?」「ご自由に。」許可が出たので歌ってみた。おお、よく響く。調子に乗って何曲か歌うがクレームはこない。当たり前だ。そんなに大きな声なんか出してない。歌、と言ったって僕が歌えるのは十代で聞いていたアニソンと革命歌しかない。しかしピットの中で小声で『インターナショナル』を歌っても誰にも届かないのだった。