茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(312)熊手を買いに走る

加藤匡通
五月×日(月)
  一昨日の土曜は解体材の搬出、連休最終日の続きだった。土曜休みで事務所が閉まっているビルの一階丸々のOAフロアを引っ剥がし、台車に乗せてエレベーターで運び出す。引っ剥がすのはOAフロア屋がやるので僕たち派遣は搬出だけ、ラクな仕事である。OAフロアと言うのはOA関連機器の配線などをするための上げ底のことで重さに耐えるためにモルタルが入っている金属板と、それを支える脚から成っている。薄くて平べったいので何の気なしに持ち上げると重さにびっくりすることになる代物で、台車に目一杯積んだら重くて台車を動かせなくなる。前回で引っ剥がしも積み込みも終わっていて、土曜は台車をエレベーターで下に下ろし産廃のコンテナ車に積むだけ、手渡しでコンテナにOAフロアを積み込みのは面倒だし受け渡しにしくじって足にでも落とせば怪我をするが、とにかく今回は量が少ない。コンテナの運転手と積み込みを終え、通路の養生を剥がして掃除して現場から解放されたのは十二時前だった。
   解放される前に会社から電話があった。「月曜の現場草刈りなんですけど加藤さん鎌持ってますか?」「ないよ。」「じゃあ悪いんですが事務所に取りに来てもらえますか。」「いいけど、こっちの作業多分午前中で終わりだよ。会社にすぐ着いちゃうけど用意出来る?」「あー、用意しときます。あと、加藤さん給料どうします?」「うーん。…もらうわ。」草刈りとは言っても実際には刈ると言うより引っこ抜くと言う方が正しい。だから鎌はいらないんじゃないかと思ったものの事務所に鎌を受け取りに行った。ついでにその日の給料も受け取った。僕が登録している派遣会社は基本的には日払いでその日の朝に電話かメールで給料を事務所で受け取るか銀行振込にするかを連絡する。支払い日は事務所が閉まっている日曜休日(通常は「祝日」と書くのだろうがそのほとんどが天皇制に由来する日である。そんなものを誰が「祝う」か!だから僕は「祝日」とは書かない。)と木曜を除いた毎日、各人自分の好きなペースで、と言うか必要になれば給料をもらう。週一より短い間隔で給料を受け取っている人が圧倒的多数だろう。僕は月曜か火曜まで貯めるつもりだったが事務所まで行くのならと受け取ることにした。このやり取りをしている時間は本来なら「今日給料取りに行きます。」と言っても給料が出る時間ではない。なんとなく得をした気分になっているが、こうして本来なら必要ない時にまで給料を受け取って日払いから抜けられなくなっていくのだ。
   さて、今日。八時半開始で現場に十五分前に監督と待ち合わせ。住所を頼りに着いた先は少し広い空き地だった。都心部なら家が二、三軒建ちそうだ。半分は駐車場だったのだろう、アスファルトに覆われ、もう半分は真ん中ではなく周辺に草が生えている。監督は既にいて、工事のための地質調査に来ている業者も一人、既に作業を始めていた。元駐車場に草はない。なんだ、大した量じゃないじゃん。監督の説明を聞いてさらにほくそ笑む。明日の地鎮祭のために整えたいのだそうだ。人の背ほどに伸びつつある草や隣との境界のフェンスに絡んだ蔓を取ってくれればいい、短い草は手を付けなくていい、のだそうだ。地鎮祭なんざどーでもいい。が、こんなもん、一日なんかかからないぜ。穴掘り草むしりで俺を他の××××(会社名)と一緒にすんなよ?伊達に外構屋にいた訳じゃないぜ?この段階で間違った自尊心とともにすっかりやる気になっている。馬鹿と鋏は使い用、派遣会社はうまいことやったよ。鎌は使わず引っこ抜き始めた。この日の作業にほぼ鎌は使っていない。抜いた方が早いのだ。しばらくしてユンボがやって来て試掘を始めた。二トンダンプにユンボを乗せてやって来て、一人で下ろしてユンボを運転している。僕には外構屋のY社でお馴染みの光景だ。と、ユンボのオペさんが声をかけてきた。「こっちが終わったら、かこうか?」重機を使えば瞬く間なのに人力で草むしりしているのを同情したようだ。この段階でやっと九時、僕一人で既に六分の一くらいが終わっている。当然お願いした。オペさんは試掘が終わるとユンボで土の表面を引っかき草をむしると帰った。次の現場に行くそうだ。残ったのは隣地との境の塀やフェンス沿いとダンプの駐車部分手前のユンボが周り込めなかったところだけ。これで残りは六分の二か。
   監督も派遣会社の社員も草刈りをあまり真面目に考えていないのは土曜に鎌を取りに行ってわかったていたが、今朝改めて確認してしまった。刈った草をどう集めるかまるで考えていないのだ。多分僕に手で拾い集めさせればいいと考えていたのだろう。それはやたらと時間がかかるお勧めしないやり方だ。そんなもん熊手があれば簡単なのに。あれば格段に作業がはかどるので監督と派遣会社にお伺いをたてた。現場から歩いていける金物屋で売っているのは携帯で検索、電話をかけて確認済みだ。「熊手買って来ていいですか?割と近くであるんですけど。」もちろん立て替え払いのOKも取った。丁度十時なので、じゃあ買い物に行きますか。
  現場から金物屋までは十五分ほど、山手線の駅目指して歩けばいいようだ。この辺りに土地勘はないので道路脇に立っている地図を頼りに歩いていく。携帯地図のはあまり頼りに出来ない。細かくって目が疲れるのだ。一番気掛かりのは古本屋を見つけたらどうしようか、だったが幸い見つけずに済んだ。見つけたらやっぱり寄らざるをへないからなあ。金物屋にあったのは希望した物とはやや違い、金属製の物だったがまあいいや。二千三百円。余計に金を持っていてよかったよ。熊手を担いでまた十五分。現場へと戻ると十時四十分過ぎ、監督たちが近所への挨拶廻りの準備をしている。「彼、今買って来たんですよ。」言外になんと物好きな、と言ってるように聞こえなくもなくてちょっとむっとした。あんたらが用意してないから俺が買いに走ったんだろうが!しかし何も言わずに熊手で草を集め始める。いやーやっぱり早いねえ。
   全部片付けたら二時になるところだった。思ったよりかかるのはいつものこと、他の××××と大差ないってことだ。監督に連絡すると「ちょっと待ってて」と言われて二十分。昼は駐車場で食べられたがもう駐車場に日陰はない。あまりよろしくないと思いながら向かいの道路の端っこの日陰で本を読む。今日は学習会のテクストになってる『現代歴史学と戦争責任』を読んでいる。思ってたよりはるかに読みやすい。やっときた監督はもう少し手伝ってくれと言う。明日の地鎮祭で建物の形がわかるように地面にビニール紐を打ち込んでおきたいのだと。ところが今度は「図面忘れた。」ハイハイ。また離れた場所にある現場事務所に戻り、帰ってきたと思ったら今度は延々と携帯電話相手に話始めた!読書ははかどるけどさ、それはないんじゃない?作業そのものはあっと言う間だったが終わったら三時半を過ぎていた。あんまり早上がりって気分じゃなくなった。