茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

日雇い派遣日記(21)

                  加藤匡通

四月××日(水) 通勤読書とピンポンダッシュ

 茨城で仕事をしていた頃は自宅兼事務所だったので、朝、極端に言えば八時に下の事務所に下りればよかった。通勤時間はゼロ。夢のようだぜ!ま、実際そんなことは夢のように瞬く間に終わったわな。仕事そのものは県内の各現場まで車で移動、運転手はたいてい僕で一番の新入りがやってたということだ。遠けりゃ二時間以上、近けりゃ五分、眠気こらえてラジオかけて、それが通勤と言えたかもしれない。できれば自動車の運転とは無縁でいたかった、車の運転なんて好きでもなんでもない方だったので、茨城での通勤はまったくうれしくなかった。
 今、日雇派遣から日雇に出世し(出世じゃないか。そもそもほとんど違いがないような気が自分でもする)しかしどっちにしろだいたい都内の現場に電車で通勤である。家を出てから現場に着くまで一時間強。自宅からみらい平駅まで十分、最寄駅から現場まではまちまちだが今のところ二十分歩けばどうにかなっている。電車に乗っている時間は三十分以上、遠くなればそれだけ乗ってる時間は延びていく。
 この時間、すわれたら眠っちゃうんだけど(毎朝五時起き、慣れてもやっぱり眠いんだよ。詰所ないから昼寝も出来ないし)、起きてる時は読書。現場の休憩時間は十時と三時が三十分、昼が一時間。これに通勤を合わせると四時間近く読書時間があることになる。おお、夢のようだ!もちろん丸々本読んでられるはずもない。これも夢だった。けど確かに本読む時間は茨城で仕事してた時より増えている。確認はしてないけど冊数も増えた。
 日雇派遣の時は、何時間か待機時間が発生するような現場があった。検査前のクリーニングに大量投入なんて現場では検査が始まると詰所で待機となる。そうするとゆっくり本が読める。
 一番本が読めた現場は港区の高層マンション新築に電気屋の下で入った時だった。電気屋と言っても電気JV、その工事の電気の元請の企業共同体のすぐ下の仕事、大手の監督の手元みたいなもんである。オートロックで各戸のインターホンで確認しないとマンション内に入れないという、安アパート住まいには理解できない安心安全街づくりなマンションのインターホン点検の仕事が二日続いた。一階入り口(複数ある)インターホン前で無線持って各部屋から各入口のカメラとインターホンが正常に機能しているかを一つ一つ確認する作業である。僕たち日雇派遣はこれをピンポンダッシュ(今、奪取と変換しやがった。わっはっは)と呼んだ。
 ついでに言うとこのピンポン奪取、もといダッシュ(気に入った)作業は一回飛ばされている。数日続いた現場で、「明日はインターホンの動作確認」と言われて派遣会社に確認の電話もして荷物置いて帰った夜八時過ぎ、会社から「すいません、元請から言われたみたいで明日の作業中止です。遅いので代わりの現場も手配できません。」と電話が来た。電気JVよりは元請のスーパーゼネコンの方が当然強い。段取りに何か問題があったんだろうとは想像出来るが、馬鹿野郎お前ら俺たちの日当保証してくれんのかよ!
 一日目は要領が分からなかったものの、二日目は各室がこっちを呼んでる時だけカメラ前にいればあとは座り込んでても大丈夫、露骨にさぼって本を読んでます、でなければ問題なしということに気づいて本を読み続けた。各室を廻るのは一班だけなので一度呼ばれると次まで三、四分空く。まとまった時間ではないもののややこしいもんでなけりゃ十分読める。カメラ前に座り込んだままだとさすがに「姿が見えない、立って全身を見せてください」と当然のような気もするクレームはきたが、こまめに立ったり座ったりしながら「××前、確認しました、聞こえます」と無線に答えるだけの実に楽な作業。まじめな人はもちろん立ったままやってる。で、新書二冊読んでもまだ三時なので近くの本屋にもう一冊買いに走った。これは僕の読書スピードが速いのではなく、最近の新書がすかすか過ぎるのだ。昔の岩波新書の半分以下で一冊出してるもんなあ。
 電車通勤のおかげで本読む時間は増えたが茨城にいる時間は減った。おかげで地元で映画を見る機会も減っている。都内に比べて遅い時間まで上映してて十二時過ぎに上映終了も珍しくないが、翌朝つらいから遅くまで出歩かないのだ。年もあるだろうけどな。他にも、例えば以前は仕事が終わったらすぐに出来たビラまきも出来なくなった。うまくいかないよ。
 そうそう、最近通勤中にすることが一つ増えた。自宅のパソコンは動いてくれなくなって久しいので携帯メールでこういった文章を打っている。すごく面倒。メールなんかしないで本読みたい。