茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

日雇い派遣日記(54)バケツでコン打ち

九月××日(土)

加藤匡通

 先行工事というのががある。あらかじめ敷地いっぱいに建物が建つことが分かっていて、例えば裏のブロックを積むことが難しくなる場合、建物本体の工事が始まる前にブロックだけ積んでしまったりすることが外溝屋の先行工事である。建物が建つ前だから仮囲いで仕切られたむき出しの地面、まあ物があっても建物の基礎のコンクリートまでで上物はないので作業はとても楽になる。当然職人たちにも評判はいい。開放的な空間での作業、と言っていいくらだ。
 この先行工事が出来なかったらどうなるのか、という見本が今日のコン打ちである。
 建物の後ろと左手にブロックを二、三段積まなければならない。住宅地で隣家は目の前一メートル先、作業スペースも一メートル。建物本体は仕上がりよせばいいのにエアコンの屋外機まで取り付けある。もちろんブロック基礎を作るため人力での掘削、つまりスコップでの穴掘りから始まったが、これはそんなに深くもなかったし地面も固くはなかった。砕石敷いて人力で転圧し、鉄筋組んで型枠組んでとここまでは、狭いのでやりづらいけどそんなに辛くは なかった。
 日雇派遣の頃のコンクリ打設はたいていがゼネコン現場でのポンプ車を使っての打設でバイブのスイッチ係。生コンを型枠にきちんと流し込むにはバイブレーターという巨大なうなぎのような装置が必要で、これで振動させることで生コンはどうにか流れる。型枠が大きければ一階下でハンマーを持って型枠を叩いて生コンが流れるのを助ける必要も出てくる。バイブを使っても上手く流れずジャンカと呼ばれる空洞が出来ることも珍しいことではない。バイブには長い電源コードが付いている。バイブ本体の操作は土工の役目だが、足場材だ鉄筋だ型枠だと足を取られるものばかりある実に歩きづらい足下の(当たり前だ。歩くための場所じゃないからな)電源コードを絡まらないように盛り変えるのは、コンクリート打設に関わりのある躯体関係の業者から一名づつ供出された者の役で、各業者はこれによく日雇派遣を使っていた。電気や設備衛生、つまり空調・水道関係はコンクリの躯体に管を通さなければ仕事にならず、コン打の最中にパイプを潰されたりしてはたまらないのでスイッチ係として人を出してパイプの補修も出来るようにしている訳だ。十時三時の休憩は生コンの都合次第でなくなり、昼だって丸一時間とれるかは分からない。足下は鉄筋で絶えずバランスを取りながら歩かなければならない。夏場はかなりきつい仕事である。しかし「スイッチー!」という叫びに合わせてスイッチを入れたり切ったり、コードを盛り返したりというこの仕事、僕は嫌いではなかった。本気の養生・クリーニングに比べたら僕にははるかに楽。ついでに言えば五時前に終わっていることも多かった。
 しかし外溝屋G社はポンプ車など使わない。全て一輪車ないしバケツである。ポンプ車は高くて割に合わないのだ。で、今日は幅一メートル、エアコン屋外機あり、型枠から突き出た鉄筋は腰の位置という素敵な環境をバケツにコンクリ入れてのコン打である。バケツは手に持っていると鉄筋に引っ掛かるので肩に担ぐ。四人並んでバケツリレー。鉄筋は転んで刺さると下手すりゃ死亡事故なので頭にカバーを被せているが、服によく引っ掛かる。だからみんなひいひい言いながらバケツを担いでいる。
 それでも今日は三十度を越えてる程度なので助かっている。これが一週間前なら三十五度、誰か倒れてるね(三十度がまだましって一体どうなってんだよ。今年の夏は)。一人二百回程度のバケツリレーでどうにかコン打は終了。これは明日、いや年だから明後日肩が痛かろうよ。
 午後は地盤の高さ出し、泥の整地である。精神的にはいつになっても上手く出来ないこっちの方が僕にはつらい。
 帰りに銭湯に寄った。ドヤの多い地域で銭湯も多く、客にもドヤの住人が多いようで、自然と会話が聞こえてきた。デヅラ八千円でドヤ代と飯、酒、煙草で何も残らないそうだ。それでも毎日仕事があるだけまし、だとか。寄せ場で八千円!そんなに低いのかよ、そりゃ日雇派遣の相場も下がるさ!