茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(235)ブランド店で養生撤去

加藤匡通
十二月×日(月)
   なぜかまた固定現場に回されていて、もう二週間同じ現場に入っている。しかも本体の職人はおらず僕が職長になっている。なので面接で休みます!と穴を空けまくる訳にもいかず、残業も逃げられない。何故こんなことに?土曜は休んだが、監督には月曜もと言われ、会社にも月曜戻りと確認をして、だからヘルメットも何も道具は全部置いてきた。しかし土曜日、会社からの電話は月曜現場は空けになったので違う現場に行ってくれ、だった。
   で、都心の誰でも知ってるブランド店の改修工事に来ている。こんなことでもなければ絶対来ないぞ。毎週休みの日だけ改修工事をしているらしい。作業は一人で養生撤去と聞いた。現場近くのゼネコン事務所に集合と言う。しかし朝、現場で連絡すべきI社の職人とは予定の七時四十五分を過ぎても連絡が取れない。夜勤で養生をしていて今が片付け真っ最中で電話も切っているようだ。八時に職人たちは上がって来たが、今度は監督がつかまらない。現場はセキュリティーが厳しくて、所定の入館証がないと入れない。僕の分の入館証は監督に申請してもらわないと仕方ないのだ。監督が来て現場に行ったら今度は作業内容を巡って一悶着。現場ではガラス屋が六時から早出して壁一面の大きなガラスをはめ込んでいるが、クリーニングをI社に頼んで来た。しかしI社の職人は聞いていないので道具も持って来ていないし、多分事前の契約に入っていない。と言うかそもそも納品前のクリーニングは納入業者が、この場合はガラス屋がするもので筋違いだろう。こういう問題は監督の判断を待たないとどうにもならない。結局ガラスは後日I社がクリーニングとなったが、その判断待ちで僕が作業に取りかかり出したのは、八時四十五分だった。計一時間の待機だが本読みながらゆっくり待ってられるはずもなく、実に落ち着かない時間を過ごした。まったく嬉しくない。
   夜勤班は窓のガラスはめ込みのために床と壁に養生をしていた。床養生はブルーシートの上にコンパネが敷いてある。養生する分には大変だろうが剥がすには訳ない広さだ。養生の下はタイルだ。さすがに金がかかってますな!コンパネの上に鳶がローリングタワーと言う移動式の足場を組み、ガラス屋がその上で作業をしている。ガラスは二重で今日入れているのは内側だから吹きっさらしで凍えることはない。それどころか館内の他の階は営業中なので暖房がついて暖かい。広い窓からは都心の街並みが見下ろせる。外は八度と電光掲示の巨大な温度計が表示している。あの時計台があの位置ってことは、僕のいる高さが五十メートルくらいか。この街の景色も随分変わったものだ。五十四年と比べたら高い建物ばかりだ。さぞゴジラも壊しづらかろう。
  ガラス屋がローリングタワーの必要な高所作業を終わると鳶がローリングタワーを解体する。解体が終わったら僕がまず壁養生を剥がす。これはほんの数枚の青ベニと呼ばれる実際に青い厚手の合成樹脂の板で、すぐ終わる。ガラス屋が仕事を終えてからが僕のメインの仕事、現場内にはもう誰もいない。店内を壊して廻ればさぞ気持ち良かろうが、それは出来ない(当たり前だ。)。十時の休憩を挟んでガラス屋の作業が全て終わったのは十一時。床のコンパネを剥がし、その下のブルーシートを剥がし、片付けて、さて掃き掃除を、と思ったら人が来た。
   ブランド店の社員らしい若い女性がビルの管理会社の男性と店内の仕上がり具合を見に来たらしい。男性は工事の最中に顔を出しているので末端の僕のような作業員にも挨拶をした。しかし女性は無視。作業員は目に入らないらしい。まあそんなもんだろう。彼女と僕では階級が違う。階級が違えば姿など見えない。それより何より僕は早く掃除をして作業を終わりにしたいのだ。これは多分終わり終いだぞ?なのに二人は店内のあちこちを確認して回っている。嫌がらせで埃を立てながら掃除を、ともいかず昼休みにした。まだ十二時前だ。
   たっぷり一時間休んでから掃除をして監督に連絡をし、二時には現場を出た。
   派遣会社は早上がりと分かっていて僕を入れたのだろう。このニ週間入ってる現場は一時間ニ時間と言ったまとまった残業でなくとも十分程度の残業が続いていた。会社もゼネコンも十分では残業代は出さない。もちろん違法だが、正面からそう言えば僕に仕事が回って来なくなるだけだ。毎日終了報告時に「十分残業」と伝えていたが、電話の向こうは苦笑しているだけだった。十分残業なんて、時間内で仕事を上手くこなせなかった証拠でもあるので恥ずかしいことでもあるから、たいていわざわざ自分から申告はしない。そんなことを踏まえて早上がりの現場に入れたのだろう。
   現場を出てそのまま映画館まで歩いて『ウォールフラワー』を見た。超能力のない『クロニクル』という趣のいい映画だった。教室内の階層では多分底辺(あるいは番外)だったろう僕には身につまされる場面だらけ。見終えた直線にまた見たいと思う映画はそうはない。映画が終わって外に出たらまだ五時前だった。素晴らしい!