茨城不安定労働組合

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賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(238)ボイド抜きを発見!

加藤匡通
十二月××日(水)
  耐震工事現場は昨日終わった。もちろん現場は継続している。I社の仕事が一旦切れたと言うことだ。監督は年末にまた呼ぶと言っていたが、どうなることやら。
  今日はJRのターミナル駅から歩いて十分ほどの住宅地での穴掘り。天気予報は雨だと言っている。派遣会社は長靴はいらないと言うので、荷物を増やしたくないのもあって持って来なかった。養生・クリーニングの社の仕事。N社で穴掘りと聞いた時は耳を疑った。N社は内装解体をしたりもしているが、穴掘りは聞いたことがない。おまけにN社本体からも一人来るがN社に入ったばかりどころか現場仕事未経験の新人だと言う。N社一体どうしちゃったんだろう。実際、朝顔を合わせたらゲームのバグを探すバイトを八百円台でしていたが、一ト月仕事がなくてN社に入ったと言っていた。あの業界、儲かってるんじゃないのか?人件費切りまくって収益出してるのか?僕のいる派遣会社でも現場経験のほとんどない新人が増えているのは、今回派遣会社に戻った短い期間でも感じている。食い詰めて肉体労働に流れてくる人が増えているのだろうか。アベノミクスとやらの霊験はどこに行っているよ。N社を使っている元請けに聞いたらN社も仕事が減っていていろんな仕事を取っているらしい。「人材派遣と変わらない」と言われていたが、それは僕の知るN社の姿とは大きく異なる。
   僕たちの元請けは設備屋だった。基礎のコンクリを打っただけの地面に水道とガスの配管をしている真っ最中で昨日も掘っていたそうだ。昨日に比べれば範囲は狭い。幅一・五メートル、長さ十二、三メートルくらいの、コンクリの基礎で囲われたところを五十センチ程度掘る。設備屋は上下水道を設置するために掘るが、水道の脇にはガス管が入る。水道の分だけ掘るなんて器用な真似が出来るはずもなく、ガス屋の分も掘ることになるが、まあこれはお互いさまだ。さらに言えば幅一・五メートルの内両端の二十センチずつは何も埋めないから掘らなくともいいのだが、踏めば崩れるしそこだけ残して掘るのはむしろ手間なのでコンクリにぶつかるまで掘ってしまう。土は埋め戻したばかりで固まってもいないので柔らかく掘りやすい。ガス屋を含めて六人で掘っていたが、僕は設備屋の職長と「僕の最寄駅の駐車場、一日二百円が最安値ですよ」「あっはっは」なんて世間話をしながら二人で半分近く掘っていた。N社の新人はスコップの使い方もよくわからないようだ。言ってもわからない方が当たり前なので使ってもらって慣れるしかないなあ。僕はもう年末になると言うこの時期、気温は五度程度の中、半袖で穴を掘っている。暑いんだよ。ヘルメットをかぶらなくてもいいとまで言われたが、何人もがスコップを振り回している現場でそれは怖い。そんなことが許されるゆるい現場である。こんな都心でなあ。
  十時には掘り上げた。雨はまだ降っていない。配管して埋め戻したら終わりだからと言われ、取り立ててすることもなく現場で無駄話をしていなければならないのはちとつらい。詰所があれば中で休めるんだが、敷地いっぱいに建物を建てるこの現場にはまだ詰所はないのだ。躯体が立ち上がったら中に作るのだろう。設備屋の配管はすぐ終わったがガス屋が随分手間取っている。出来上がったところから埋め戻しては行くものの、昼を過ぎ、三時になってもガス屋は終わらない。彼らも僕たちが待っているのがわかっているので休まず作業をしている。
  待ち時間に少しだけした作業の中にボイド抜きがあった。掘った先の基礎の中には当然配管するための穴がある。そこに入っているボイドを抜いてくれと言われ、「(道具は)バールか何かですか?」と聞いたら「いや、ボイド抜きあるから」と初めて見る道具を渡された。溝のある管のついたラジェットのだった。ラジェットが何かと言う説明は僕の手に余る。ボルトの類を締めたり緩めたりする道具である。溝にボイドを引っ掛けて回すと何の苦労もなく誰でも簡単にボイドが抜ける。あんなに苦労さたボイド抜きがこんなに簡単に出来るなんて、とこっちは腰を抜かすところだった。「何でもっと早く教えてくれなかったんすか!」と理不尽な要求をすると「昔からあるけどな」と返された。どーゆーことだ?帰りの片付け時に「人生であと何回ボイド抜くかわかんないけど、これもらっていいすか?」と尋ねたら「駄目だよ、それ一万二千円したんだよ」と答えられてまた腰を抜かしそうになった。
  三時過ぎにとうとうポツリポツリと始まった。結局最後に埋め戻しが始まったのは三時半、終わったら四時半だった。ガス屋はまだやっている。残りの二メートルくらいの部分は自分たちで埋めていくと言う。
  早上がりを期待していたが三十分早いだけ、これでは定時と変わりない。こういう時はまるで残業したような気分になる。雨も本降りだ。寄り道せずにとっとと帰ろう。